中弁連の意見

 日本に在留する外国人は年々増加している。さらに、外国人労働者の受け入れを拡大するために改正された出入国管理及び難民認定法が本年4月施行されたことに伴い、在留外国人の数は今後も増加することが見込まれている。

 そして、在留外国人が法的問題を抱えた際、自らが最も使いこなせる言語で弁護士に法律相談を行い、事件処理を依頼する必要があるが、そのための通訳人の質・量はいまだ不十分なままである。

 そこで、中国地方弁護士会連合会は、
 

  1. 法務省及び日本司法支援センターに対し、
    (1)日本司法支援センターに通訳人を配置すること、または三者間通話、テレビ電話、インターネット通信等を用いての遠隔地通訳システムを設置することにより、多言語での法律相談に対応できるようにすること
    (2)民事・家事事件の代理援助において、一定収入以下の外国人の通訳費用の全額を日本司法支援センターが立て替え、償還を免除すること
  2. 法務省に対し、通訳人の質を確保するための認定制度を創設すること
  3. 日本弁護士連合会に対し、
    (1)日本司法支援センターと連携し、遠隔地通訳システムを調査し、全国各地の弁護士の利用に資するよう設置方法等を協議すること
    (2)通訳人の質を確保するための認定制度の創設を法務省に働きかけること

 

を求めるとともに、当連合会を構成する各弁護士会が、各弁護士会の刑事事件における「通訳人名簿」を民事・家事事件にも利用できるようにするほか、登録された通訳人の質・量の充実を図り、弁護士それぞれが外国人に関する事件について積極的に取り組むことができるよう研修等を実施し、地方自治体やNPO法人等と連携して外国人の司法アクセス障害の解消に向けて尽力することを宣言する。


2019年(令和元年)11月1日

中国地方弁護士大会

提案理由

第1 在留外国人の増加と外国人労働者受け入れ拡大の動き

1 在留外国人・外国人労働者の増加

2018年(平成30年)末時点で、わが国における中長期在留者数は240万9677人、特別永住者数は32万1416人で、これらを合わせた在留外国人数は273万1093人となり、前年末に比べ、16万9245人(6.6%)増加し、過去最高となった(法務省入国管理局 2019年(平成31年)3月22日発表)。
さらに、技能実習生や資格外活動で働く留学生を含めた外国人労働者(特別永住者、在留資格「外交」・「公用」の者を除く。外国人雇用状況届出数)が急増しており、2018年(平成30年)10月末で146万0463人に達し(前年同月比14.2%増加)、ここ数年は毎年約20万人ずつ増加している。これに伴って外国人労働者を雇用する事業所数も増加しており、2018年(平成30年)10月末現在、全国で21万6348か所に上っている(前年同月比11.2%増加。厚生労働省 2019年(平成31年)1月25日発表)。

2 改正入管難民法施行

(1)「特定技能」在留資格創設
国内の人材不足を解消するため、2018年(平成30年)12月、国会において、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立し、一部の規定を除き2019年(平成31年)4月1日に施行された。
同法によって改正された出入国管理及び難民認定法(以下「改正入管難民法」という)は、介護や外食業等14分野の特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格「特定技能1号」と、同分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格「特定技能2号」を創設した。

(2)外国人労働者受け入れ拡大
特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針(改正入管難民法第2条の3)においては、新たな在留資格「特定技能」を有する外国人の受け入れ見込み数は、向こう5年間で最大約34万人とされており、今後も在留外国人の総数は増加するものと見込まれている。

3 一元的な相談窓口の整備

政府は、改正入管難民法施行に合わせて、地方自治体が情報提供及び相談を行う一元的な窓口である、「多文化共生総合相談ワンストップセンター」(全国約100か所、11言語対応)を整備運営することを支援することとした。
しかし、地方自治体における相談窓口の整備はまだ始まったばかりで、外国人が法律相談をこれまでより容易に受けることができる体制はまだできていない。
例えば、岡山県は岡山国際交流センター内に一元窓口である岡山県外国人相談センターを2019年(平成31年)4月1日急遽設置したものの、後述のとおり外国人の法律相談に十分に対応できていない。

 

第2 外国人労働者の権利侵害の現状

1 外国人労働者に対する過酷な労働環境や人権侵害の事例

 上記のとおり、外国人労働者が急増している中、外国人労働者に対する過酷な労働環境や人権侵害が大きな社会問題となっている。
 例えば、2011年(平成23年)から2013年(平成25年)にかけて、長野県川上村でレタス栽培等に従事していた中国人農業技能実習生が、長時間かつ休日の少ない厳しい労働環境と、狭く不衛生な寄宿舎が多いといった厳しい生活環境に置かれたほか、中国の送出し機関による保証金徴収や保証人との間の違約金契約による威嚇の下で労働を強いられ、預貯金の自由な処分の可能性が奪われた事件があった。この事件に関し、日本弁護士連合会は2014年(平成26年)11月28日、憲法第22条第1項が保障する移転の自由、憲法第13条が保障する自己決定権、憲法第25条が保障する健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害しているとして、事業協同組合と法務省、厚生労働省に対して是正等を求める勧告を行った(中国人農業技能実習生に関する人権救済申立事件)。

 

2 中国地方における外国人労働者に対する権利侵害の事例

(1)「調査先60%で法令違反 岡山県内外国人実習生雇用事業所」

 外国人技能実習生を雇用している岡山県内の事業所で、2017年度(平成29年度)に時間外労働や賃金不払いなどの法令違反があったのは立ち入り調査対象の約60%を占めたことが岡山労働局への取材で分かった(2019年(平成31年)1月31日付山陽新聞)。

(2)「日立、技能実習生20人に解雇通告 国から認定得られず」
 日立製作所が、鉄道車両製造拠点の笠戸事業所(山口県下松市)で働くフィリピン人技能実習生20人に実習途中の解雇を通告したことが同社などへの取材で分かった。国の監督機関から実習計画の認定が得られず、技能実習生としての在留資格が更新されなかったため。実習生は今月20日までしか在留できず、帰国を迫られるが、個人加盟の労組に加入し、日立に解雇の撤回などを求めた。(以上につき、2018年(平成30年)10月5日付朝日新聞)。

 

3 外国人労働者の裁判を受ける権利

 憲法第32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と規定しており、外国人労働者にも裁判を受ける権利は保障されている。憲法第32条の「裁判」には、刑事事件だけではなく、民事・家事事件も含まれる。

 自由権規約第14条第1項第2文も同様に、裁判を受ける権利を保障している。

 法律相談は弁護士に自らの法的問題を相談する初めての機会であって、裁判所の手続きを利用する際には欠かせない。こうした法律相談はもちろんのこと、外国人労働者が民事事件や家事事件などで裁判所の手続きを利用し、裁判を受ける権利を実現するには、代理人である弁護士と円滑にコミュニケーションを取ることが不可欠である。

 ところが、以下述べるとおり、外国人の司法へのアクセス障害は極めて深刻な現状にあると言わざるを得ない。

 

第3 外国人の司法アクセス障害の現状

1 裁判所における通訳利用の現状

民事訴訟法第154条第1項は「口頭弁論に関与する者が日本語に通じないとき、...通訳人を立ち会わせる。」と規定し、家事事件手続法第55条、第258条第1項で家事審判、調停手続に準用されている。
しかし、家事調停で、通訳人を裁判所が選任することは一般的には行われておらず、当事者が通訳人を同行させる必要がある。裁判所によっては、外国語に堪能な調停委員を選任するよう配慮を行うことはあるが、極めて例外的な措置である。
民事訴訟、家事審判については、裁判所が通訳人を選任することは制度上可能であるが、通訳費用は当事者の負担となる。

 

2 法テラスを利用した場合の通訳サービスの現状

日本司法支援センター(以下「法テラス」という)においては、英語、中国語、韓国語、スペイン語等9か国語で、三者間通話にて通訳業者を介して、日本の法制度や相談窓口情報を紹介する、多言語情報提供サービスを実施している。しかし、三者間通話での法律相談は想定されていない。
また、契約弁護士等の事務所における民事扶助法律相談においては、通訳費用は無料だが、通訳サービスの実施について地方事務所長の事前承認が必要となっている(民事法律扶助業務運営細則第12条の6)。
なお、一部の法テラスにおいては、外国人法律相談を行っている相談場所があり(法テラス東京、法テラス三河、法テラス大阪、法テラス和歌山など)、その場合の通訳人は法テラスが手配している。しかし、岡山など多くの法テラスにおいては、通訳人名簿の整備が不十分で、契約弁護士が通訳人を探すことが多いのが現状である。
その結果、在留外国人が増加しているにもかかわらず、法テラスにおける通訳サービスの提供件数は、2016年度(平成28年度)が721件、2017年度(平成29年度)が727件、2018年度(平成30年度)が738件と、ほぼ横ばいである。
さらに、実際に事件を弁護士に委任する際には、法テラスからの通訳費用の支出限度額は原則10万2857円となっているうえ、償還義務がある。

 

3 岡山県外国人相談センターにおける外国人相談の現状

岡山県外国人相談センターでは、必要に応じて岡山県国際交流協会が長年実施している外国人法律相談(岡山弁護士会と共催、年11回実施)を紹介しているが、岡山県外国人相談センター独自の法律相談はまだ実施されていない。
また、現在実施されている外国人法律相談の通訳言語は原則3か国語で、それ以外の言語は調整が必要とされており、少数言語の相談希望者にとって敷居が高い。
したがって、外国人の法律相談ニーズに十分に対応しているとは言い難い。
しかも、弁護士受任後の通訳費用は相談者負担である。

 

4 弁護士会の「通訳人名簿」の現状

(1)岡山弁護士会の現状
2016年度(平成28年度)に国際委員会が新設され、それまで刑事委員会が維持管理していた刑事専門の通訳人名簿が、国際委員会に引き継がれた。「外国人のコミュニケーション支援」という視点に立ち、刑事に限らず民事通訳にも使える名簿として、2018年度(平成30年度)までに2回登録を更新した。
また、2017年(平成29年)の更新登録後から、岡山弁護士会のホームページの会員専用ページで名簿を閲覧できるようにした。2019年(令和元年)5月現在登録している通訳人は、英語、韓国語、スペイン語、中国語、ベトナム語で18名(会社1を含む)の登録がある。この名簿のおかげで通訳人を頼めたという事例もある一方、名簿自体の認知度も低く、名簿内容の充実と運用結果の評価が課題である。
そこで、国際委員会では、2019年(平成31年)4月から岡山県の受託事業として外国人相談センターを開設した岡山県国際交流協会と協議したり、岡山県が例年開催する多文化共生会議に参加したりして、国際交流センターに登録している通訳ボランティアや各国人の任意団体(華人協会など)と情報交換したところ、通訳人を務めることができる人材の情報が得られた。通訳人のプライバシーを守りつつ、これら団体との信頼関係で通訳人名簿登録者を増やそうとして努力中である。
さらに、通訳人登録者の質の確保のために、登録している通訳人と弁護士を対象とした通訳人研修(刑事弁護)を2018年(平成30年)に2回行った。しかし、民事通訳の研修はまだ実施できていない。

(2)当連合会管内の他弁護士会の現状
当連合会管内の他弁護士会は、「刑事通訳・民事通訳の名簿がある。司法通訳検討PTを立ち上げた」(広島)、「刑事通訳用の名簿はあるが、民事通訳用の名簿は存在しない」(鳥取・島根)、「民事通訳用名簿を準備中」(鳥取)、「規則上、民事・家事・刑事の区別なく利用できる名簿だが、運用実態としては刑事のみ」(山口)という状況である。
組織としての通訳(外国人のコミュニケーション支援)問題への取り組みは始まったばかりである。民事事件で通訳人が必要な事件を担当することになった時に対応に苦慮する、という状況を変えるためには、今後、通訳人名簿を民事通訳にも利用できるようにするとともに、さらに情報収集に努め、通訳人の人材の情報を集積していく必要がある。

 

第4 外国人支援団体に対する聴き取り調査

法テラスは2015年度(平成27年度)、外国人支援を行っている全国10団体(中国地方では広島市の「スクラムユニオンひろしま」)を対象に聴き取り調査を実施し、論文にまとめている(総合法律支援論叢第9号、日本司法支援センター、2017年(平成29年)3月発行)。
そのなかで、クライアントの問題解決のために他の相談機関(弁護士、市区町村など)を利用する際の障害として、8団体が「言葉の問題」を挙げている。ある団体からは「法律用語を理解するのは難しい。日常生活はある程度出来ても、言葉の問題は出てきます」との意見が寄せられた。
また、法テラスを利用する際の障害として、7団体が「多言語のチラシ・説明資料等がない」、6団体が「通訳がいない」を挙げている。団体からは「通訳人を自分たちで手配しなければ法律相談ができないため、相談への敷居を高く感じる」「支援団体の通訳人も法律に詳しいわけではない。通訳人はみなボランティア、長く日本に住んでいる外国の方が多い。そのため専門用語の通訳はなかなか難しい」との意見が挙がった。
そして、法テラスに対する期待を尋ねたところ、8団体が「多言語に常に対応してほしい」と回答している。
こうした調査結果を受けて、上記論文は「現在ある多言語情報通訳サービスを法律相談に活用することや、また各地方事務所にテレビ会議システムを配備して、三者通話での法律相談を行うことも考えられる」と重要な指摘をしながら「予算上の制約があり、実際行うことは難しい」と簡単に退けてしまっている。
しかし、逆に言えば、予算上の制約が克服できれば、法テラスとして上記サービスを提供可能なことを示している。

 

第5 司法アクセス障害の解消に向けて参考となる事例

1 医療通訳の分野における国やNPO法人の取り組み

(1)国の動き
国は、訪日外国人の増加を目指す立場から、未来投資戦略2017(2017年(平成29年)6月9日閣議決定)において、訪日・在留外国人患者が安心・安全に日本の医療機関を受診できるよう、医療通訳等の配置支援等を通じて、受付対応等も含めた「外国人患者受入れ体制が整備された医療機関」を2020年(令和2年)までに100か所で整備する目標を前倒しして取り組むこととし、達成した。
そこで、今後は、都道府県が選定する「外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関」を中心に、外国人患者の受入れ環境の更なる充実を目指すとしている。
その一環として、厚生労働省は、医療通訳育成カリキュラムテキストの作成、公開、医療通訳者の養成支援を行っているほか、医療機関における外国人患者受入れ環境整備事業で、団体契約を通じた電話医療通訳の利用促進事業、医療通訳者の配置や外国人患者受入れ医療コーディネーターの配置事業が採用されている。
以上のとおり、医療通訳の分野では、国による積極的な取り組みが目立つ。

(2)NPO法人の取り組み
神戸市長田区のNPO法人「多言語センターFACIL(ファシル)」は、地方自治体や医療機関、企業などと連携し、通訳・翻訳を通じて、日本在住の外国人を支援し、地域社会との共生を実現している。
通訳・翻訳者は約1200人登録されており、約60言語に対応している。
近年は、地元の拠点病院と連携し、外国人が通訳費用を1500円だけ負担することで安心して診察を受けることができるような医療通訳に力を注いでおり、神戸市から全国に向けて制度設計を発信し続けている。

2 生活支援における岡山県総社市の取り組み

 岡山県総社市においては、①外国人相談②コミュニティ交流③日本語教育④就労支援⑤医療・防災―の5つの柱を据え、外国人支援に当たっている。
リーマンショック後の2009年(平成21年)10月に外国人窓口を設置し、まずポルトガル語通訳のできる職員を1人配置した。その後も中国語通訳のできる職員を1人、さらに2019年(平成31年)4月からベトナム語通訳のできる職員1人を配置して施策を積極的に進め、主にコミュニケーション支援を行っている。これらの職員は、人権・まちづくり課に所属し、個別の窓口との会話を補助するため、市役所の中を一緒に回る、行政から届く様々な通知の意味を伝えることなどを行う。全庁どこでも必要な時に必要な職員を呼ぶことができ、年間300件の相談に対応している。
外国人が法律相談を受ける時も同様であり、通訳の必要がある時に通訳のできる職員がコミュニケーションを支援する。

3 通訳人の質-オーストラリアの例

オーストラリアでは、国内で提供する通訳・翻訳の水準を設定、監視し、通訳者・翻訳者の最低水準を維持することを目的とした機関である、全国翻訳者通訳者認定機関(National Accreditation Authority for Translators and Interpreters、「NAATI」)が設置されている。
NAATIではこれまで、100を超える言語において、通訳と翻訳それぞれの資格認定が実施されてきた。裁判所や病院などで通訳者が必要な場合、NAATI資格保有者の手配が通例となっている。
また、AUSIT(Australian Institute of Interpreters and Translators)と呼ばれる職能団体が存在し、通訳者が専門職として職務上守るべき倫理規定を明示的に定めている。
なお、オーストラリアにおいては、連邦政府が提供する翻訳・通訳サービス(Translating and Interpreting Service、「TIS National」)の存在も重要である。英語を話すことができない住民や、こうした住民と対話する必要がある公的機関や企業を対象にしており、ほとんどの場合、住民は無料で利用できる。全国どこからでも利用可能で、毎日24時間160以上の言語と方言に対応している。

 

第6 外国人の司法アクセス障害の解消に向けた取り組み強化の必要性

1 法務省、法テラス、日本弁護士連合会への要望事項

これまで指摘してきたとおり、在留外国人が法的問題を抱えた際、自らが最も使いこなせる言語で弁護士に法律相談を行い、事件処理を依頼する必要があるが、そのための通訳人の質・量はいまだ不十分なままである。
こうした外国人の司法アクセス障害を解消するためには、医療通訳の分野と同様に、国による積極的取り組みが不可欠である。
また、先進的地方自治体やNPO法人、オーストラリアの事例を参考にすれば、通訳人の質・量を充実させるための方法が見えてくる。

そこで、各機関に対し、以下のとおり要望する。

(1)法務省と法テラスへの要望事項
まずは、全国各地に設置されている法テラスを、外国人の司法アクセス障害解消のための拠点にすることが望ましいと考える。
すなわち、法テラスの機能を拡大させ、法テラスに通訳人を配置すること、または法律相談における三者間通話、テレビ電話、インターネット通信等を用いての遠隔地通訳システムを設置することを提案する。
その結果、多言語での法律相談が可能となる。
また、外国人にとって、法律相談の際は無償で通訳人を利用できたとしても、実際に弁護士に依頼する際には有償でしか通訳人を利用できないとすれば、弁護士に事件を依頼することが困難となる。
そこで、法テラスを利用する、民事・家事事件の代理援助において、その通訳費用の全額を法テラスが立て替えるとともに、償還を免除すべきである。

(2)法務省への要望事項
法廷通訳の正確性(通訳の遺漏を含む)が問題になった裁判例が複数存在する刑事通訳と同様、民事・家事事件においても通訳の正確性が問題になりうるから、通訳人の質を確保するための認定制度が必要であり、その創設を求める。

(3)日本弁護士連合会への要望事項
通訳人の質・量の充実を図るためには、日本弁護士連合会として、法務省や法テラスに積極的に働きかける必要がある。
日本弁護士連合会が本年6月に採択した「グローバル化・国際化の中で求められる法的サービスの拡充・アクセス向上を更に積極的に推進する宣言」においても、各弁護士会と連携し、外国人の法的サービスを拡充するための環境整備を支援するとされている。
そこで、法テラスと連携し、遠隔地通訳システムを調査し、全国各地の弁護士の利用に資するよう設置方法等を協議することや、通訳人の質を確保するための認定制度の創設を法務省に働きかけることを要望する。

2 当連合会を構成する各弁護士会の責務

当連合会を構成する各弁護士会は、現場で実際に外国人の法律相談を受け、事件を担う弁護士を全面的に支援すべきである。
そのためには、各弁護士会が刑事事件において保有する「通訳人名簿」を民事・家事事件にも利用できるようにするとともに、登録された通訳人の質・量の充実が不可欠である。
また、弁護士それぞれが外国人に関する事件について積極的に取り組むことができるよう研修等を実施することも必要である。
さらに、外国人の司法アクセス障害の解消は、各弁護士会だけでできるものではない。地域で積極的に外国人支援に当たっている地方自治体やNPO法人に自ら飛び込み、どのような外国人支援が可能かについて学び、そのうえで通訳人名簿の共有化を図るなど、連携して取り組むことが望まれる。

 

第7 まとめ

地域で生活する外国人が増加するなか、当然に外国人も民事や家事に関する法的紛争を抱えることになるが、その際に、日本人と同様に法的サービスの提供が受けられるようにすることは、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の責務である。
そのためには、これまでのように個々の弁護士の自助努力に任せるのではなく、法務省や法テラスにより上記要望事項が制度化され、日本弁護士連合会や当連合会、各弁護士会が組織的に取り組むことによって、外国人の法的サービスを受ける権利、とりわけ裁判を受ける権利の実質化が実現するものと考える。
改正入管難民法が施行された本年、司法アクセス障害の解消に向けて、当連合会の決意を対外的に表明する意義は大きい。
 
以上の理由から、本宣言を提案するものである。

以上