中弁連の意見
児童虐待や犯罪等の被害を受けた子ども及び児童虐待や犯罪等の目撃者である子どもから、事実の聴き取りを行う場面は少なくない。
このような場合、子どもを保護し、適切な刑事事件の立件手続を行い、かつえん罪を防止するためには、子どもから正確な事実を聴き取り、その聴き取りの状況を正確に記録することが必要となる。
そして、誘導や暗示を含む質問は、正確な事実の聴き取りを阻害してしまうところ、子どもは、大人と比べて更に誘導や暗示に陥りやすい特性を持つので、子どもから正確な事実を聴き取るためには、誘導や暗示を含む質問を可能な限り排除する必要がある。
一方、子どもに関わる司法・福祉・医療の多数の専門機関が、それぞれの専門機関ごとの目的を持って、専門機関ごとに事実聴き取りを行ってしまうと、子どもは何度も同じような事情聴取を受けることとなり、子どもにとって甚大な負担となる。そして、このような繰り返される事情聴取は、子どもの記憶をゆがめることにもつながってしまう。すなわち、子どもの負担を軽減し、かつ子どもの記憶汚染を防ぐためには、子どもに関わる多数の専門機関が連携して、子どもからの聴き取りの回数を可能な限り少ないものとする必要がある。
よって、中国地方弁護士会連合会は、
- 各弁護士に対して、児童虐待や犯罪等の被害を受け、またかかる被害の目撃者である子どもから、正確な事実を、子どもにとってできる限り負担の少ない方法と回数で聴き取るための面接技法である「司法面接」について、「司法面接」の研修を受講することや実施された「司法面接」を検証するなどして、その面接技法の理解を深めて、その研鑽に努めるよう奨励し、
- 各弁護士に対して、子どもに関わる多数の専門機関が連携する「多機関連携」が司法面接の前提として必要不可欠であることの理解を深めて、そ の連携体制構築のための不断の努力を継続することを奨励するとともに、
- 子どもに関わる多数の専門機関及び一般市民に対して、司法面接と多機関連携の重要性を周知する努力を継続することを、
ここに宣言する。
2016年(平成28年)10月14日
中国地方弁護士大会
提案理由
第1 子どもの供述について
1 子どもの供述が必要とされること
全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数は、増加の一途をたどり、2015年(平成27年)は10万3260件となっており、虐待検挙件数785件である。そして、20歳未満の者が主たる被害者となる2013年(平成25年)の刑法犯の認知件数は19万9999件であり、福祉犯(児童買春・児童ポルノ禁止法、児童福祉法、青少年保護育成条例などの法令の違反)の被害者となった20歳未満の者は、6412人である。
このような児童虐待や犯罪等の被害を受けた子どもが多数存在する限り、かかる子ども達から事実の聴き取りを行う場面は必ず存在する。また、児童虐待や犯罪等の目撃者である子どもから、事実の聴き取りを行う場面も少なくない。
このような場合、子どもを保護し、適切な刑事事件の立件手続を行い、かつえん罪を防止するためには、子どもの供述が必要とされ、その供述と聴き取りの状況の記録は正確なものである必要がある。
特に、性虐待を含む児童虐待は客観的証拠の乏しい事件が多い。このような客観的証拠の乏しい事件や、子どもが唯一の目撃者であるような事件において、子どもを保護し、適切な刑事事件の立件手続を行うために、子どもの供述が証拠として必要不可欠なものになる。
このように、子どもの供述は、司法手続において必要とされ、それが不要となることはない。
2 子どもの供述に存在する問題点
このように子どもの供述は必要とされるが、被害者保護とえん罪防止のためには、重要な証拠である子どもの供述の信用性評価を誤ってはならない。
しかし、子どもは、大人と比べて更に誘導や暗示に陥りやすい特性を持つので、子どもから正確な事実を聴き取るためには、誘導や暗示を含む質問を可能な限り排除する必要がある。
また、子どもに関わる司法・福祉・医療の多数の専門機関が、それぞれの専門機関ごとの目的をもって、専門機関ごとに事実聴き取りを行ってしまうと、子どもは何度も同じような事情聴取を受けることとなり、子どもにとって甚大な負担となる。そして、このような繰り返される事情聴取は、子どもの記憶をゆがめることにもつながってしまう。
子どもの供述の信用性評価を誤った結果、マクマーティン事件や甲山事件等のえん罪事件が発生するという事態が生じる。
マクマーティン事件とは、アメリカ合衆国の保育園内で多数の性虐待があったとの容疑について、6年間続いた刑事裁判により、子どもに対して誘導尋問が行われた結果の供述を基礎としていることを理由として、すべての容疑が無罪となったえん罪事件である。これは、アメリカ史上最も高価で最も長い刑事裁判であったといわれている。
甲山事件とは、知的障害者施設である甲山学園における園児2人の死亡に関して、起訴された者すべての無罪が確定したえん罪事件である。このえん罪事件発生のきっかけの1つとして、当時11歳の甲山学園の子どもの目撃供述が挙げられている。この裁判は、すべての事件終結まで、事件発生から25年、裁判開始から20年以上が経過するという長期裁判となった。
このような子どもの供述信用性評価を誤った結果のえん罪事件は、えん罪を防ぐべきものと考える当然の前提に加えて、子どもの保護という観点からも防ぐべきものである。
第2 司法面接と多機関連携
1 このような子どもの供述の必要性とその問題点から、①誘導や暗示を排除して正確な事実を聴き取ること及び②被害にかかる聴き取りを可能な限り少ない回数として二次被害を防ぐことを目的とした「司法面接」(英語でforensic interview)という面接手法が考案され、発展をしてきた。
2 この「司法面接」とは、専門的な訓練を受けた面接者(以下、特に指摘がない場合、「面接者」とは実際の質問を行う面接者をいう。)が、誘導・暗示に陥りやすい子どもの特性に配慮し、児童虐待等の被害を受けた子ども等に対し、その供述結果を司法手続で利用することを想定して実施する事実確認のための面接をいう。
そして、この「司法面接」の重要な前提として、子どもに関わる多数の専門機関の連携チームを構築すること、すなわち「多機関連携」が必要となる。
3 それでは、司法面接と多機関連携の具体的内容を説明する。
(1)はじめに
現在、司法面接と呼ばれる面接手法は、面接のやり方(方法)が異なる複数のプロトコルが存在する。「プロトコル」とは、この場合、手順・手法という趣旨で用いられている。
我が国においては、NICHDプロトコルとChildFirstプロトコルの検討・活用が進められている。まずは、この2つのプロトコルの概要を説明する。
(2)NICHDプロトコル
構造化された質問と自由報告を中心としたプロトコルであり、事前の面接計画策定から始まり、実際の面接は、①導入、②ラポールの形成、③エピソード記憶を話す練習、④自由報告、⑤クロージングという順番で行われる。
「自由報告」とは、オープンな質問で子どもに自発的に語ってもらうための面接手法である。「ラポールの形成」とは、面接者と子どもとの間に肯定的な関係を形成することといわれている。「クロージング」は、面接や聴取を終結させるための手続という意味で用いられている。
また、「エピソード記憶」とは、個人的に体験された出来事についての記憶といわれており、いわゆる「知識」(意味記憶)とは異なるものである。
自由報告においては、オープン質問から始まり、オープン質問だけでは事実確認ができない場合にWH質問(いわゆる5W1Hの質問)を行う。そして、WH質問においても事実確認ができない場合に限って、誘導質問や選択質問(選択肢を用いた質問)を行う。
また、ブレイクと呼ばれる面接途中の面接者の中座時間をとり、そのブレイクの間に面接者は面接を別室で観察している多機関連携チームと協議を行い、多機関連携チームが必要とする情報を聞くための質問の不足の有無やその質問方法を確認する。
これはアメリカ合衆国の心理学者が開発したプロトコルであり、日本においては北海道大学大学院文学研究科内の司法面接室が、原則2日間連続の研修を実施している。
(3)ChildFirstプロトコル
半構造化された質問のプロトコルであり、人形や人体図を用いた面接手法も含まれている。
事前の面接計画策定から始まり、ラポール[F1] の形成を行い、懸念されている課題に対する質問を行い、懸念されている課題の開示があった場合に詳細の探求を行い、終結手続に入る。
ここにおいても、「ラポールの形成」とは、面接者と子どもとの間に肯定的な関係を形成することといわれている。
面接が行われる場合は、児童相談所職員・警察官・検察官・医師で構成される多機関連携チームがモニターを通して司法面接を観察する。
そして、多機関連携チームが必要とする情報を司法面接者が聴き取っていない場合、多機関連携チームのメンバーが司法面接者に電話で指示を出すことによって、1回の司法面接で多機関連携チームメンバー全員が必要とする情報を聴取することができ、子どもの負担軽減と証言の信用性維持に役立つ。
この著作権はアメリカ合衆国の米国児童保護研修センターであるNational Child Protection Training Center (NCPTC)が有しており、日本においては、認定特定非営利法人チャイルドファーストジャパンが、子役使用の模擬面接等を含んだ5日間(40時間)の研修を行っている。
(4)司法面接としての要素
これらのプロトコル以外にも、司法面接のプロトコルは存在し、更に上記2つのプロトコルについても見直しや発展が継続している。
すなわち、「司法面接」という手法は発展を続けており、現時点で明確な定義づけをすることは困難であるが、いわゆる「司法面接」とは以下のような要素があるものを指すといえる。
ア まず、面接者は専門的訓練を受けて、可能な限り誘導や暗示を排除した質問を行うことである。誘導や暗示を含む質問の排除は、子どもの記憶と供述をゆがめないために当然に必要とされる要素である。
イ 次に、多機関連携のチームが作成され、面接実施前に、多機関連携のチームにおいて事前準備が行われることである。これは、子どもの供述が必要とされる医療・司法・福祉の手続の中で、それぞれの専門機関が子どものために必要とする情報の内容と程度が異なることから、それらを少ない回数(可能であれば1回)で聴き取るために、面接者側が、すべての専門機関の必要とする情報を理解する必要があるからである。
どのような練達した面接者であっても、すべての専門機関の知識・経験を有することは不可能である。そのため、面接実施前に、各専門機関が、一堂に会して質問者とともに面接計画の打ち合わせをして、必要とされる情報を共有化することにより、各機関での事情聴取を行わずとも、面接者が、各専門機関が必要とする事実を聴取することができるようになる。
ウ 次の要素として、実際に行われる面接を、多機関連携のチームメンバーが一堂に会して、別室で見守り、必要に応じて、面接者に不足している事実を聴き取るための助言をするシステムが存在していることが挙げられる。面接者は、面接の実施により判明した事実を基礎として、他の専門機関が必要とする事実についての新たな質問を面接者のみで新たに組み立てることが難しいことから、多機関連携のチームメンバーの助言が必要となる、また、面接者は、子どもに質問を行う場合、質問をすることに精一杯となり、事実聴き取りが不足していることに気付くことができないことがある。このような事態に対応し、正にその場で実施されている面接において、不足事実を聴き取るために、面接者以外の多機関連携のチームメンバーが見守り、面接者に対して必要に応じた助言を行うのである。
エ そして、この司法面接は、その面接者と子どもが面接の部屋に入って、面接が終了するまでのすべての状況を録画して正確な記録に残す必要がある。
これは、子どもの供述について、発言内容・声の大小・声の調子・表情などについて、記録に残すことのできる限りの最大限の情報を正確に記録するためであり、同様に面接者の質問事項や質問態度について正確に記録をするために行われる。このように面接者と回答者のやりとりと供述過程が、すべて記録されることにより、後の検証を行うことができるようになる。
オ また、司法面接実施前に、子どもの記憶が汚染されることを防ぐため、虐待等が認知されて以降、可能な限り早期に実施されることが必要となる。
4 司法面接結果の活用
このような司法面接が行われた結果としての録画映像及び音声については、その被面接者である子どもの関わる司法・福祉・医療の全ての分野で活用されるべきであり、司法の分野においては、刑事・民事・家事を問わず被面接者である子どもに関わるあらゆる司法手続で活用されるべきである。
第3 司法面接と多機関連携の必要性
1 子どもの供述の正確な信用性評価
誘導と暗示を含む質問から得られた供述の信用性は低く、誘導や暗示を含む質問や重複質問によって、事実を体験した者(供述者)の記憶はゆがんでしまう。そして、このような誘導や暗示を含む質問や重複質問による供述の信用性低下及び記憶汚染は、子どもの場合、より顕著に表れるものといえる。
したがって、どのような機関が事情聴き取りを行う場合でも誘導や暗示を含む質問は行われるべきではないが、現実には、各専門機関が事実聴き取りを行う場合、各専門機関が必要とする事実を聴き取り易い質問方法として、誘導や暗示を含む質問が多用されてしまう。そして、多くの場合において、その事情聴取の状況は、録音録画などの方法により正確に記録されることはなく、後にその誘導や暗示の状況を検証することもできない。
このような事情聴取の実態から、子どもが供述調書と異なる供述を裁判所での証人尋問手続において行った場合に、子どもの裁判所外での供述の信用性が否定されるような事態が生じ、また、子どもの供述の信用性評価を誤った結果として、えん罪が生じてしまう。
他方、誘導や暗示を含む質問が多用される原因ともいえるが、誘導や暗示を含む質問を排除した質問により、詳細な事実聴き取りを行うことは実質的には難しい。
司法面接は、誘導や暗示を可能な限り排除した質問によっても詳細な事実聴き取りを行うことができるように考案され、かつ専門的訓練(研修)を受けることを前提とする面接手法である。そして、子どもからの聴き取りを可能な限り少なくすることにより、重複質問による記憶汚染を防ぐものでもある。また、事情聴取の状況を録画して、後の検証を行うことができる面接手法である。
すなわち、子どもの供述の信用性評価をより正確に行うため、多機関連携を前提とする司法面接の導入をする必要性がある。
2 二次被害の防止
子どもに関わる司法・福祉・医療の多数の専門機関が、それぞれの専門機関ごとの目的をもって、専門機関ごとに事実聴き取りを行ってしまうと、子どもは何度も同じような事情聴取を受けることとなり、子どもにとって甚大な負担となる。
例えば、ある子どもが親からの性虐待を受けていた場合、子どもの被害に学校の先生が気付いたことから、その子どもは、学校の先生からの性虐待事実確認としての質問を受け、一時保護手続のための児童相談所からの性虐待事実確認の質問を受け、性感染症などの診察のために医師から医療行為に必要な質問を受け、加害親の親権喪失手続において家庭裁判所調査官から性虐待事実聴き取りを受け、性犯罪としての立件手続のために警察官から性虐待の事実聴き取りを受け、公訴提起のために検察官から事実聴き取りを受け、慰謝料請求のために弁護士から事実聴き取りを受け、それぞれの裁判手続で証人尋問が行われる可能性がある。
上記の例において、それぞれの手続は、子どもを性虐待から守るための手続であるといえる。しかし、それぞれの手続及び関係機関が分断されていることから、子どもは、性虐待の事実を何度も語らなければならなくなってしまう。被害事実を語ることによる被害の追体験が何度も繰り返されることにより、重大な二次被害が生じてしまうことがある。さらに、その際の質問方法に配慮を欠いたことからの二次被害が生じる可能性もある。
子どもを守るための手続を行おうとしたことが原因で、子どもが更に被害を受けることはあってはならない。
上記の例において、学校の先生が性虐待を認知した直後に司法面接が実施され、司法面接により子どもが語った事実が、上記の例における手続で必要とされる事実すべてを満たしている場合、その司法面接の結果を記録した録画映像と音声があれば、それを活用することにより、子どもが手続ごとに何度も事情聴取を受ける必要がなくなるといえる。そして、可能な限り子どもに負担のかからないように専門的訓練を受けた面接者が事実聴き取りを行うことにより、子どもの負担を軽減することができるようになる。
したがって、専門的訓練を受けた面接者が事実聴き取りを行い、子どもに関わる多数の機関が連携をして、子どもからの聴き取りの回数を可能な限り少ないものとする司法面接が導入される必要性がある。
3 まとめ
以上のように、子どもの供述の正確な信用性評価と二次被害の防止という必要性は肯定されるべきものであり、それらを目的として考案され、その目的に資するものといえる司法面接と多機関連携が導入される必要がある。
第4 司法面接と多機関連携に関する日本の現状
1 はじめに
我が国において、現在、司法面接と多機関連携が制度として導入されているとはいえないが、徐々に司法面接と多機関連携の考え方が広められており、司法面接が実施され、その面接結果の記録が司法手続において活用されることもある。しかし、専門機関や地域ごとに認知度は異なり、その考え方も統一的とはいえず、その実施態様も異なっている。以下、主な関係機関や司法面接実施機関での概要を挙げる。
2 日本弁護士連合会
日本弁護士連合会は、2011年(平成23年)8月19日付で「子どもの司法面接制度の導入を求める意見書」を、法務省、最高検察庁、警察庁及び厚生労働省宛に提出した。
この意見書において、日本弁護士連合会は、子どもの司法面接制度を導入すべきという意見を出している。しかし、現在、我が国において、この意見書での提言の通りに司法面接制度が導入されているとはいえないばかりか、弁護士の司法面接制度に関する認知度は低いと言わざるを得ない。
3 検察庁・警察・児童相談所への3機関同時通達
2015年(平成27年)10月28日、各地の検察庁・警察・児童相談所に対して、それぞれの上位機関から、検察庁・警察・児童相談所の子どもが関わる事件での連携強化についての通達がなされた。この通達においては、概して、検察庁・警察・児童相談所の3機関が連携を強化し、協同での面接を行うことや誘導や暗示の排除した手法での事実聴き取りが留意されている。
4 児童相談所
性虐待への対応として、司法面接の考え方や手法を取り入れた「被害事実確認面接」の技法が紹介されてきた(「子ども虐待対応の手引き」(平成11年3月29日児企第11号厚生省児童家庭局企画課長通知))。
そして、2016年(平成28年)に鳥取県弁護士会が回答を求めた司法面接実施に係るアンケートにおいては、2015年(平成27年)度において288件の司法面接が実施された旨の回答があった。
5 カリヨン子どもセンター司法面接室
これは、社会福祉法人カリヨン子どもセンターの一事業として2011年(平成23年)6月に東京都内に開設された司法面接室である。この司法面接室は、弁護士が中心となって設立された機関であり、独立・中立の第三者機関として司法面接室を位置づけている。なお、社会福祉法人カリヨン子どもセンターとは、虐待等を原因として、安全に生活する場所が存在しない子どものためのシェルターや自立援助ホームなどを運営している社会福祉法人であり、弁護士が中心的役割を果たしている。
そして、この司法面接室は、室長、司法面接士及び応対スタッフにより構成されている。室長及び司法面接士については、現在、弁護士がその役に就いている。
面接が行われる「面接室」と多機関連携チームが面接を観察する「バックルーム」が存在する。
ここでの司法面接士は、質問のみ行うインタビュアーであり、各関係機関との連携・調整は、室長が行う。
6 子どもの権利擁護センターかながわ(Children's Advocacy Centerかながわ)
認定特定非営利法人チャイルドファーストジャパンが、2015年(平成27年)2月7日に神奈川県内に開設した、虐待や犯罪等の被害に遭った子どもやかかる被害を目撃した子どもが調査・捜査のための司法面接と全身の診察を受けることのできるワンストップセンターである。
2台のビデオカメラを備えた「司法面接室」、専用の診察台とコルポスコープを備えた「診察室」、更に「観察室」が設置されている。「観察室」は、児童相談所職員・警察官・検察官・医師で構成される多機関連携チームがモニターを通して司法面接を観察する。
ここでは上記第2.3(3)において説明をしたChildFirstプロトコルを使用して司法面接を行い、更にChildFirstプロトコルの研修も行われている。
第5 司法面接と多機関連携の課題
1 司法面接と多機関連携が制度として導入されていないこと
多機関連携を前提とする司法面接は、導入すべき必要性があり、我が国においても徐々にその広がりを見せている。
しかし、多機関連携を前提とする司法面接を導入し、それを活用するには、検討すべき課題が多いといえる。
まず、我が国において、多機関連携を前提とする司法面接は、国の制度として導入されているとはいえず、その導入に向けての国としての指針も存在しない。また、先に述べるように、専門機関や地域ごとに認知度は異なり、その考え方も統一的とはいえず、その実施態様も異なっている。
さらに、明確な定義づけが困難である司法面接について、各地各機関で、司法面接や司法面接の考え方を取り入れた面接が実施され、多機関での連携が試みられているが、我が国全体での検討や検証を行うに至っていないといえる。
2 反対審問権の保障に対する疑問
(1)司法面接は、子どもからの聴き取り回数を可能な限り少なくすることを目的としている以上、理想とされる聴き取り回数は「1回」となる。しかし、この聴き取りの1回化は、反対審問権の保障と相反する。
これについて、現在の司法面接と多機関連携における考え方は、司法面接が実施された場合においても、反対審問権を侵害することがないようにすべきと考えられている。
例えば、上記第3の2で挙げた例におけるそれぞれの裁判手続での証人尋問における反対尋問は否定されない。
(2)また、反対審問権の保障の趣旨はえん罪の防止や虚偽事実の認定防 止にあるといえるところ、子どもの記憶が誘導質問や重複質問により汚染された後に反対尋問を行ったとしても、子どもの記憶が汚染される前に戻るわけではなく、誘導質問や重複質問により記憶が汚染されたことの立証は容易ではない。すなわち、えん罪や虚偽事実認定の防止という趣旨からは、誘導や暗示が多用され重複した質問が行われる現在の事情聴取と比較して、それらを排除する司法面接が、えん罪及び虚偽事実の認定の防止に資するというべきである。
3 連携の困難
(1)多数の専門機関が連携をとることは実質的には困難である。
各専門機関は、各専門機関の職域の中で、日々の業務に尽力をしている。その中で、別の専門機関の考え方や要請を考慮しながら、子どものための面接計画を策定することは、容易ではない。
各専門機関が、互いの職責を尊重しあい、互いの職責への理解を深めることができなければ、連携体制を構築することはできず、現実の事件において、司法面接の事前面接準備としての充分な意見交換を行うことはできない。
また、早期に司法面接を実施するという要請から、事件ごとに多機関連携チームを組んで、そのチームの人員を集めることも困難である。各専門機関が、司法面接と多機関連携について、その必要性を理解して、緊急の招集にも応じることができるだけの体制を意識しなければいけないだろう。
(2)さらに、各専門機関に守秘義務が存在することから、各専門機関は、面接計画策定や司法面接結果の活用に係る情報の共有化そのものに消極的になってしまう。
この点について、要保護児童対策地域協議会における情報の共有と同協議会内での守秘義務の定め(児童福祉法第25条の2、同3及び同5)から、18歳未満の子どもについては、司法面接に関する情報の共有を求めることができるといえる。しかし、実際には、互いを尊重しあい、充分な意見交換ができるだけの連携体制を構築することができなければ、各専門機関が、子どもの個人情報や捜査に関する情報を共有化することが困難であろう。
また、満18歳以上の未成年者(児童福祉法上の「児童」ではない未成年者)は、児童福祉法の対象外であることから、上記の理論を適用することができない。この点については、互いを尊重しあい、充分な意見交換ができるだけの連携体制を構築した上で、子ども本人の同意を得るなどの方法で情報の共有化をすることが考えられる。
4 別機関の面接者に対する疑念
これまで司法手続の中で事実聴取を行っていた専門機関は、元来自らが行っていた事実聴取を他者が行うという状況及びそれにより得られる供述結果に疑念を抱くことがある。また、子どもの味方に立つ機関が面接を実施した場合、中立機関が行ったのではない面接結果であるという点に疑念を抱かれることがある。
これらの疑念について考える場合、まず弁護士をはじめとする各専門機関が、司法面接という手法と面接者の受けた研修の実質を理解し、その上で検証を含めた議論を行うべきである。また、実際の事件における供述の信用性に関する疑念については、面接の状況を録音録画することにより、これらの疑念を持つ者が後に検証を行うことができる。
現在の誘導や暗示が多用される事情聴取と比べて、誘導や暗示を可能な限り排除した質問による司法面接で取得される供述は信用性の高いものと考えられるので、充分に議論と検証を行いその供述の信用性評価を行うべきである。
5 議論を困難とする心理的側面
また、司法面接と多機関連携に存在する課題として、子どもに対する性虐待を含む虐待や犯罪被害について、直視と議論を避ける心理があるとの指摘がある。
子どもに対して痛ましくおぞましい被害が発生しているということについて、そのような被害が存在して欲しくないと思うことから、大人はどこかで目を逸らしたいと考えることがある。そして、その言い訳として、見ないようにすることが子どものためであると考えてしまう。特に、性の問題について論じることは、それ自体が罪悪であるかのように考えられてしまう実態があると指摘されている。
子どもが性虐待を含む虐待や犯罪被害に遭った場合、大人がそれから目を逸らすことにより、子どもは更に傷ついていくことがある。そして、性虐待を含む虐待や子どもの犯罪被害の議論が足りていないことにより、子どものための面接手法や支援手法が発展しないという事態が生じてしまう。
したがって、子どもに関わる専門機関は、専門機関で議論をするだけではなく、一般市民に対しても、子どもに対する虐待や犯罪被害が生じた場合の事情聴取の手法としての司法面接と多機関連携について、理解を求めていくようにしなければならない。
第6 今後の司法面接と多機関連携と弁護士の関わり
1 子どもに関わる専門機関
各地域の専門機関ごと、ひいては各職員(人員)ごとに、司法面接に対する理解や多機関連携に関する意識も多種多様である。そして、上記第5で記したように、検討すべき課題も存在する。
したがって、まず、各地域の子どもに関する専門機関は、司法面接と多機関連携に関して、各地域の現状に則して、司法面接と多機関連携の制度と検討すべき課題についての協議を行い、その連携体制の構築に尽力し、司法面接実施例の検証をすべきといえる。
そして、そのような各地の実例と議論を踏まえて、我が国の制度としての司法面接と多機関連携の導入の議論をすべきである。
2 子どもに関わる専門機関以外
司法面接と多機関連携は、子どもに関わる専門機関以外の一般市民も認知すべきものといえる。
まず、制度として司法面接と多機関連携を導入するためには、専門家以外の一般市民の理解を求めることが必要である。
そして、誘導や暗示の排除という司法面接の趣旨からは、子どもに関わる専門機関以外の者が、子どもに対して誘導や暗示を行うような事態も可能な限り排除すべきものといえる。誘導や暗示の排除を趣旨とする司法面接と多機関連携が、広く一般市民に理解されることにより、子どもに関わる専門機関以外の者からの子どもに対する誘導や暗示を排除することにつながり得るといえる。
3 弁護士
弁護士は、刑事・民事・家事を問わず、子どもが関わるあらゆる司法手続に関与し得る法律家として、司法面接と多機関連携の制度と検討すべき課題についての協議を行うべきである。また、弁護士は、子どもの保護とえん罪防止などの複数の立場と視点を持ち得る法律家として、司法面接と多機関連携の制度について検証を行うことができる。複数の立場と視点を持ち得る法律家として弁護士が議論と協議を行い、検証をすることによって、制度の適正に資することとなり、また多様な専門機関の連携体制構築にも資することになるといえる。
そして、実際の事件における司法面接においては、子どもが関わるあらゆる司法手続に関与し得る法律家として、面接計画策定の際にあらゆる司法手続において必要とされる質問事項についての意見を述べるなどの方法で、多機関連携チームに参加すべきである。
特に、民事手続(慰謝料請求など)や児童相談所での関わりの薄い家事手続(離婚・面会交流など)においては、弁護士の視点がなければ子どもに関わる議論を尽くすことができないといえる。
例えば、両親の一方のみから子どもへの虐待が行われている事案において、子どもの監護を行う非加害親が子どもへの虐待を離婚原因として別居済みの加害親との面会交流事件や離婚事件で争う場合、虐待の事実そのものに争いがある場合は、調査官調査により子どもに対して虐待事実の事実聴き取りが行われる可能性がある。このような事案で、非加害親が面会交流や離婚事件で加害親と争う前に司法面接が実施されていたとしても、その司法面接が家庭裁判所での手続で必要とする情報に対応したものとなっていなければ、再度、調査官による虐待事実の聴き取りが行われることとなり、聴き取り回数の軽減という司法面接の目的を果たすことができない。このような事態を防ぐため、弁護士が、司法面接の面接計画策定時点において、後のあらゆる司法手続を想定した意見を述べる必要があるといえる。
第7 結語
このような司法面接と多機関連携の必要性と課題を踏まえると、各弁護士は、制度としての協議と検証を行い、実際の司法面接における意見を述べるなどの関わりを持つ前提として、司法面接と多機関連携の理解を深めて、その面接技法の研鑽に努めるべきである。
また、各弁護士は、そのようにして得た司法面接と多機関連携の知見を活用して、司法面接に関する協議と子どもに関わる多数専門機関の連携体制構築に尽力すべきである。その上で、専門機関だけでなく、一般市民に対しても司法面接と多機関連携の重要性を周知していくべきである。
以上の理由から、本宣言を提案するものである。
以上