中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会は、裁判所に対し、被告人の十分な弁護を受ける権利を保障するため、被告人が公訴事実を否認し、事件の内容が複雑困難である等の事情がある裁判員裁判対象事件(特に、支部地域で発生した事件)については、弁護人からの要請があれば、被告人国選弁護人3名以上を選任することを求める。

 以上のとおり決議する。

 

2012年(平成24年)10月12日

中国地方弁護士大会

提案理由

1 被告人国選弁護人の複数選任基準については、刑事訴訟法は特段の規定を設けていない。
 しかし、事案に鑑み、1人の国選弁護人では十分な弁護活動ができない場合には、複数の国選弁護人が選任されるべきである。この点について、最高裁判所事務総局刑事局長は、各地方裁判所長宛に対し、2007年(平成19年)7月26日付けで、国選弁護人の選任は各裁判体の判断事項であるが、日本弁護士連合会からの「要望書に記載された事情があるような事件においては、国選弁護人を複数選任することが適切であると考えられる場合も少なくないと思われます。」との通知を行っている(なお、添付資料1の2009年(平成21年)5月20日付け最高裁判所事務総局刑事局第一課長通知によって、一部修正がなされている。)。
 日本弁護士連合会からの要望書に記載された国選弁護人を複数選任することが適切と考えられる事情とは下記のとおりである。

 

 

(1)裁判員裁判・公判前整理手続対象事件など短期間に集中的な弁護活動が必要となる事件
 公判前整理手続に付された事件、特に重大事件である裁判員裁判対象事件で、かつ、公判が連日的あるいは集中的に開かれる事件では、弁護人は、短期間に密度の高い集中的な準備活動が求められる。とりわけ裁判員制度導入後は、裁判員にとって分かりやすい公判活動を遂行せねばならないため、その工夫にも腐心せねばならない。そのため、このような事件で、次のアないしエのいずれか、またはこれらに準ずる事情がある場合には、複数の国選弁護人で対応する必要がある。

ア 事件の内容が複雑困難で、事実関係の把握、分析、検討その他必要な弁護活動が過重負担となることが想定されるとき

イ 被告人が公訴事実を否認しており、事実関係の把握、分析、検討、被告人との打ち合わせ、公判対策その他必要な弁護活動が特に過重負担となることが想定されるとき

ウ 社会的注目度が特に高く、マスコミ対策など本来の弁護活動以外に特段の対応・配慮が必要となることが想定されるとき

エ その他特段の必要性があると認められるとき

(2)上記(1)以外の事件

 上記(1)のアないしエの事情、またはこれらに準じる事情が複数存在し、総合的に判断して弁護活動が特に過重負担となることが想定される場合には、複数の国選弁護人で対応する必要がある。

 過去、少なくない冤罪事件が発生しており、このことについては検察官及び裁判官だけでなく、弁護人の責任も否定できない。その反省に立てば、充実した弁護活動を行うために複数の弁護人が付く必要性は高い。

 

2 山口県では、裁判員裁判が実施されているのは本庁のみである。しかし、山口県は都市分散型という特殊事情があり、弁護士も本庁地域のみならず支部地域(周南、萩、岩国、下関、宇部)に分散している。
 山口県において、2009年(平成21年)5月の裁判員制度施行以来、裁判員裁判対象事件数は合計34件であるが(2012年(平成24年)5月末までに起訴されたもの)、うち本庁管内で被疑者が勾留された事件はわずか5件である。したがって、支部地域で発生した裁判員裁判対象事件は全体の約85%(29件)にものぼる。

 支部地域で発生した事件について、支部地域に事務所がある弁護士が被疑者段階から弁護人として選任されることが通常であるが、支部地域の弁護人にとっては、被告人の身柄が山口刑務所に移送された後の接見回数や接見時間の確保が困難になることや公判が連日開廷され事務所に戻ることができないため公判準備に支障を来すことが危惧される。

 中国地方弁護士会連合会管内の他の4県でも、いずれも裁判員裁判は本庁のみで実施されているため、支部地域で発生した事件では、山口県と同様の問題が生じているといえよう。

 このため、裁判員制度施行前から、山口県弁護士会は、支部地域で発生した裁判員裁判対象事件の国選弁護人の複数選任問題について、山口地方裁判所と協議を重ねてきた。その結果、裁判所にも、適正な弁護体制を確保するために複数選任については柔軟に対応をする必要性が理解され、裁判員裁判開始当初は、弁護の継続性の観点から支部地域で選任された弁護人と本庁地域の弁護人により3名の国選弁護人を選任する運用がなされていた。しかし、2010年(平成22年)4月以降、山口地方裁判所が3名以上の国選弁護人を選任しないようになり、複数選任について制限的に運用するようになったのではないかと懸念された。

 その後、山口県下においても、支部地域で発生した裁判員裁判対象事件で、被告人が犯人性を否認し、DNA等の鑑定結果が膨大で検討に多大な時間を要し、公判自体も11回開かれた事件があった。2011年(平成23年)6月に起訴されてから、支部地域に事務所がある被疑者段階から選任されていた国選弁護人2名から、本庁地域に事務所がある3人目の弁護人を選任するよう裁判所に要望が出されたが、裁判所は選任を頑なに拒否し、「本庁地域の弁護人を選任するなら、現在の2名の内1人が辞任したらどうですか」、「17時以降は弁護士会館を使って公判準備をしてはどうですか」などと無理難題を要求していた。弁護人の費用を負担する日本司法支援センター山口地方事務所からも3人目の国選弁護人が選任されれば報酬及び費用を支出するとの意見書が提出されていたが、裁判所の姿勢は変わらなかった。このため、2012年(平成24年)2月10日の山口県弁護士会定期総会において、本件同様の決議を行い、これを同月17日に山口地方裁判所、及び、広島高等裁判所、並びに、最高裁判所に執行したところ、ようやく同月29日になって3人目の選任がなされた。

 

3 被告人の十分な弁護権を保障するためには、被告人が公訴事実を否認し、事件の内容が複雑困難である等の事情がある裁判員裁判対象事件についてはもとより、特に支部地域で発生した事件については、裁判員裁判が本庁で行われ続ける限り、弁護人からの要請があれば、被告人国選弁護人として3名以上の弁護人の選任がなされるべきである。

 裁判所(裁判体)は、複数選任について2名の選任を限度とする硬直的な運用を改めなければならない。

 以上の理由から、本決議を提案するものである。

以上