中弁連の意見

議  題

鳥取県弁護士会

子どもと非監護親との面会交流実施機関の設置を求める議題

 

 各地方公共団体に対し、子どもの権利条約第9条3項に定める「親の一方または双方から分離されている子どもの最善の利益に反しない限り、定期的に親双方との個人的関係及び直接の接触を保つ権利」を離婚・別居家庭における子どもに対して現実的に保障するため、子どもと非監護親との面会交流が適切、かつ安全に実施できるための面会施設を備えた中立的な実施機関を設置することを求める。

 また、国に対し、各地方公共団体が上記の施策を実施するに当たって、財政的な負担を含む可能な限りの政策的支援を行うことを求める。

提案理由

  1.  子どもの権利条約第9条1項は、「締約国は、子どもが親の意思に反して親権者から分離されないことを確保する。ただし、権限ある機関が司法審査に服することを条件として、適用可能な法律及び手続に従い、このような分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。当該決定は、親によって子どもが虐待もしくは放任される場合、または親が別れて生活し、子どもの居所が決定されなければならない場合などに特別に必要となる。」と定める。
     また、同条3項は「締約国は、親の一方または双方から分離されている子どもの最善の利益に反しない限り、定期的に親双方との個人的関係及び直接の接触を保つ権利を尊重する」と定め、子どもの権利としての面接交渉ないしは面会交流についての重要性を認めている。
     
  2.  上記の権限ある機関が司法審査に服することを条件として分離を決定する場合の日本国内における典型例としては、離婚により親の一方が親権者となり他方が親権者から外れる場合が挙げられる。
     民法は766条1項において「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護についての必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定める。」としており、この条項の子の監護に関する処分の中に非親権者・非監護親との面会交流が含まれるとするのが国内においての一般的な解釈となっている。この点、まだ離婚に至っていない別居中の非監護親との面会交流についても、以前は家庭裁判所の審判事項として認められるか否かにつき争いがあったが、最高裁判所第一小法廷平成12年5月1日決定は、「別居状態にある父母の間で右面接交渉につき協議が調わないとき、又は協議することができないときは、家庭裁判所は、民法766条を類推適用し、家事審判法9条1項乙類4号により、右面接交渉について相当な処分を命ずることができると解するのが相当である。」と判示し、面会交流については子の監護に関する事項に含まれ、審判事項となることを確認している。
     この国内法における「子の監護」を適切なものにするという観点に立った場合、やはり、子どもの権利条約が規定するように子の福祉の観点から面会交流が原則的に実施されるべきことが要請される。これは、児童虐待など例外的な場合を除いて、離婚後、もしくは別居中等の家庭においても、非親権者・非監護親が継続的に子どもと人間関係を維持するために適切な面会交流の機会を持つことは、将来における養育費の負担意欲を高めるだけでなく、子どもの成長・発達にとって必要であり子どもの福祉により適合すると考えられるためである。このことは、子どもの権利条約第18条1項が「締結国は、親双方が子どもの養育および発達に対する共通の責任を有するという原則の承認を確保するために最善の努力を払う。親または場合によって法定保護者は、子どもの養育及び発育に対する第一次的責任を有する。子どもの最善の利益が、親または法定保護者の基本的関心となる。」と定める趣旨とも合致するものである。
     ちなみに、面会交流(面接交渉)の権利性を認めるリーディング・ケースとなった東京家庭裁判所昭和39年12月14日審判は、「離婚後親権もしくは監護権を有しない親は、未成熟子の福祉を害することがない限り、未成熟子との面接交渉権を有し、その行使に必要な事項につき、他方の親との協議が調わないとき、またはできないときは、家庭裁判所がこれを定めるべきである。」と原則として面会交流を認める方向に立った。なお、この抗告審である東京高等裁判所昭和40年12月8日決定は、「一方の親の親権及び監護権の行使との関係で制約を受けることは当然である。」と原審を取り消し、未だ、面会交流が持つ子どもの権利性についての認識が不十分であることを露呈したものの、我が国の裁判所は、面会交流が持つ子どもの権利性についての認識を深めつつあるということができる。
     
  3.  しかしながら、現実には、離婚後、もしくは別居中等の家庭において、非親権者・非監護親と子どもとの面会交流が困難となり、人間的な関係を維持できなくなっているケースが多数存在する。2004年(平成16年)に行われた社団法人家庭問題情報センター(FPIC)の調査によれば、離婚後に非親権者と子どもとの面会交流がなされているケースは6割程度に留まっている。家庭裁判所における2005年(平成17年)の面会交流の調停事件をとってみた場合、4,744件の既済事件のうち調停成立は2,284件であり、同年の審判事件701件の既済事件のうち認容は284件であった。この調停成立、審判認容件数を見る限り、裁判所における手続をとってみても面会交流の適切な実施がなされていない実情が浮かび上がっている。
     このような現象の原因としては、我が国では離婚後の共同親権の制度をとっていないこともあり、一般市民の意識としては非親権者・非監護親が子どもと人間的な接触を持つのが当然であるとの認識がもともと薄いということ、逆に親権は親の権利であってその一環として面会交流も親の権利として認められるという観念が強く、子どもの権利としての視点が弱いことなどが考えられる。
     面会交流を巡るこのような実情は、非親権者・非監護親からの養育費の支払いがなされない事例が多数にのぼる原因の一つになっていると思われる。

     
  4.  このような面会交流が困難となっている現状を解消するためには、単に面会交流が子の福祉に適合するものであることや、子どもの権利擁護の観点からの必要性を市民に向けて啓発するだけでは立ちゆかない問題がある。
     その典型的なケースが、別居状態で夫婦が激しく対立抗争中である場合、そして離婚後もその対立抗争関係が解消されない場合である。
     このような場合、両親間の葛藤が子に反映してその精神的安定を害するおそれがあり、子の福祉の観点からしてもそのまま面会交流を実施した場合には問題が生じてくる。
     例えば、両親の一方が離婚後においても未練を断ち切れない場合、他方との関係を取り戻そうとして子どもとの面会交流の機会を利用する場合などが考えられる。このような場合、他方の親権者・監護親側自体の保護も必要となってくる。なぜなら、非親権者・非監護親が子どもとの面会交流の機会を通じて復縁を迫ってきたり、子どもを通じて親権者・監護親と子どもとの生活の様子を探り、その生活に干渉しようとするからである。
     あるいは、非親権者・非監護親が、面会交流の機会を利用して、親権者・監護親についての悪評を吹き込み、自分のもとに子どもがやってくるように仕向けたりすることによって親権者・監護親との関係を破壊し、親権者・監護親に対しての復讐を果たそうとする行動に出るケースも想定される。
     このような干渉的、関係破壊的な面会交流は、相手方当事者たる親権者・非監護親の平穏な生活を破壊すると同時に、子どもが心理的に安定した良好な環境のもとで発育することを阻害し、子の福祉にも反する状況が生じることとなる。
     
  5.  この対立抗争関係がとりわけ鋭く、且つ顕著に現れるケースにDV被害事案がある。
     DV被害事案においては、加害者側において「子どもを置いて出て行け」と言って子どもとの面会の機会を奪うことも含めて、暴力的に被害者をコントロールしていたケースが多い。そのため、被害者側としては、面会の機会に新たな暴力が再開すること、また、暴力的に子どもを連れ去られてその後裁判所の決定を得ても実力行使により子どもに再び会わせてもらえなくなることに対する根深い恐怖を抱えている場合が極めて多く見られる。
     このため、上述の観点からすれば、DV被害事案においては、特に子の福祉の観点からしてもそのまま面会交流を実施した場合には問題が大きいといわなければなない。
     このような懸念から、現実の審判においても、DV被害事案において面会交流自体を否定する以下の審判例が出されている。
     東京家庭裁判所平成14年10月31日審判は、
     「一般に、父母が別居中の場合も、未成熟子が別居中の親と面接・交流の機会を持ち、親からの愛情を注がれることは、子の健全な成長、人格形成のために必要なことであり、面接交渉の実施が子の福祉を害する等の事情がない限り、面接交渉を行うことが望ましい。
     しかし、真に子の福祉に資するような面接交渉を実施するためには、父母の間の信頼・協力関係が必要である。しかるに、本件においては、相手方が申立人の暴力等を理由に提起した離婚訴訟が継続しているのみならず、保護命令が発令されており、申立人と相手方は極めて深刻な紛争・緊張状態にあり、従来からの経緯に照らせば、このような深刻な対立状況が早期に解消されることは期待しがたいとみるのが相当である。そうすると、未成年者はまだ2歳の幼児であるから、このような状況下で面接交渉を行えば、父母間の緊張関係の渦中に巻き込まれた未成年者に精神的な動揺を与えることは避けられず、未成年者の福祉を害するというべきである。」
     と述べ、面会交流の申立を却下している。
     また、東京家庭裁判所平成14年5月21日審判は、
     「しかし、現在でも申立人に加害者としての自覚は乏しく、相手方を対等な存在として認め、その立場や痛みを思いやる視点に欠け、また、事件本人について、情緒的なイメージを働かせた反応を示すこともない。他方、相手方は、平成12年1月にPTSDと診断され、安定剤等の投与を受けてきたほか、心理的にも手当が必要な状況にあり、さらに、母子3人の生活を立て直し、自立するために努力しているところであって、申立人と事件本人の面接交渉の円滑な実現に向けて、申立人と対等の立場で協力しあうことはできない状況にある。現時点で申立人と事件本人の面接交渉を実現させ、あるいは間接的にも申立人との接触の機会を強いることは、相手方に大きな心理的負担を与えることになり、その結果、母子3人の生活の安定を害し、事件本人の福祉を著しく害する虞が大きいと言わざるをえない。
     従って、現時点で申立人と事件本人との面接交渉を認めることは相当でないので、本件を却下することとし、主文のとおり審判する。」
     と述べ、やはり、面会交流の申立を却下している。
     さらに、横浜家庭裁判所平成14年1月16日審判は、
     「ところで、子の監護者とならなかった親と子とが面接交渉をすることは、一般、抽象的には、子の利益にそうものと考えられるところから、子の監護に関する処分の内容として認められているが、具体的に面接交渉を認めるか否かは、監護について必要な事項か否か、あるいは、子の利益のため必要があるか否かという観点から、決められるべきことがらであり、面接交渉を認めることが子の最上の利益にそうものであると認められない場合には、面接交渉を求めることはできないと解するのが相当である。そこで、これを本件についてみると、上記認定の事実によると、申立人は相手方に対し、繰り返し、暴力をふるい、骨折を伴うような重大な傷害を与えていること、そのため、相手方は、申立人に対し、強い恐怖感を抱いており、所在を知られることによって、再び暴行を受けるかもしれないという危惧感をいだいており、そのような感情を抱くことが不自然、不相当ということはできないこと、これに対し、申立人において、例え暴力をふるったことに理由があるとしても、その暴力について反省し、相手方の恐怖感を和らげるような行動が十分にとられているとは認めがたいこと(平成13年6月に到達した申立人の相手方代理人宛の書面によると、申立人は相手方が嘘をついているとして相手方に対し詫びを求めており、また、人の心を分からない人には天罰が降りてもおかしくないなどの記載がある)、相手方及び未成年者は、現在は、暴力を受けることなく、安定した状態で生活をしていること、前記認定のような暴力が過去にあり、未成年者は積極的に申立人との接触を求めてはいないことなどが認められ、これに本件記録に現れた一切の事情を総合すると、申立人が未成年者に愛情を抱いている事実があるとしても、現時点において、申立人が求める面接交渉を認めることが子の最上の利益に合致するとは認められない。反対に、もし、これを認めると、未成年者が再び両親の抗争に巻き込まれ、子の福祉が害される危険がある。」として、やはり、面会交流の申立を却下している。
     
  6.  しかしながら、これらの審判例でも原則論として述べられているように、父母が対立抗争する場合であっても、非親権者・非監護権者と子どもとの面接交渉は極力保証されなければならない。最も問題性が浮かび上がるケースといえるDV被害事案であっても、子どもと加害者との関係までは破壊されておらず、子どもの方でDV加害者とされた父母との面会交流を希望している場合もあり、そのケースは様々である。子の福祉の観点からは原則的に面会交流が認められるべきという大前提からすれば、面会交流の方法等を工夫することにより、前述の問題が解消できないかという点が模索されなければならないこととなる。
     このような努力を行った一例として、名古屋高等裁判所平成9年1月29日決定がある。
     同決定は、「別居中のため子の監護養育を行っていない夫婦の一方に、子との面接を認めるか否かはあくまでも子の福祉に合致するか否かによって決定されるべきである。その場合、幼年期の子にとって大切なことは監護者との安定した関係を維持継続することであるから、子の両親間の対立、反目が激しく、その葛藤が子に反映してその精神的安定を害するときは、子と別居している親との面接は避けるべきであるといえるが、両親が子の親権をめぐって争うときはその対立、反目が激しいのが通常であるから、そのことのみを理由に直ちに面接交渉が許されないとすると、子につき先に監護を開始すればよいということにもなりかねず相当ではなく、右の場合でもなお子の福祉に合致した面接の可能性を探る工夫と努力を怠ってはならないというべきである。本件においては、未成年者の両親である抗告人と被抗告人が対立、反目していることが明らかであるが、前示のとおり抗告人も被抗告人も教養を備えた教育者なのであるから、その面接交渉の回数、時間、場所、更に家庭裁判所の調査官の関与、助言などを考慮、工夫をすることによって、未成年者に対する両親間の感情的葛藤による影響を最小限に抑える余地があると考えられる。
     また、子が、面接を求める親に対し萎縮、畏怖、嫌悪、失望又は拒絶の感情を抱き、その精神面、情操面でマイナスになるときなどは、子と別居している親との面接は避けるべきであるが、本件の場合未成年者と抗告人とがそのような関係にあることをうかがうことができない。そうだとすると、面接交渉の審判がされるまでの僅かの期間ではあるが、前記工夫のもとで面接交渉が実施されることが望ましいし、その必要性もあるというべきである。」
     と述べ、父母の間に対立反目がある場合は一般論としては面会交流を認めることは難しいが、その場合であっても子の福祉に合致した面会交渉の機会を持つことへの努力を求め、審判前であれば場合によって家庭裁判所の調査官の関与も必要としている。
     もっとも、この名古屋高等裁判所の指摘については、その方向性は極めて示唆に富んだものというべきであるが、離婚後において家庭裁判所調査官が継続的に面会交流に関与することは制度上無理があり、また、父母が対立抗争関係の渦中において自らの感情をコントロールすることも実際問題として困難であり、安定的な面会交流を保障するための条件として一般化することはできない。
     
  7.  そのため、別居状態で夫婦が激しく対立抗争中である場合、そして離婚後もその対立抗争関係が解消されない場合においては、単に両親へ自主的な自制・配慮を求めるだけでは極めて不十分であり、面会交流は少なくとも現在の家庭裁判所内での調査官立ち会いによる試行面接での試みを家庭裁判所を離れても実施できるよう修正・拡大した後見的に配慮された特別の枠組みのもとで行われることが望ましいこととなる。
     すなわち、最低限、

    ① まず、子の引渡し場面における暴力や暴言を避けるため、直接当事者が顔を合わせることなく、引渡しができる制度が必要である。
    ② また、子どもの連れ去りを防ぐため面会場所を制限し、管理者が子どもを安全にもとの親権者(監護者)に引き渡す制度が必要である。
    ③ さらに、干渉的・関係破壊的な面会交流が子どもの福祉に反する結果になることを防ぐため、面会内容面でのルールを定め、このルールに反した場合は、面会交流を認めないとの制度が必要である。

     上記の内容を満たした制度としては、米国の「子ども面会センター」類似の施設(「弁護士が説くDV解決マニュアル(日本DV防止・情報センター偏、朱鷺書房)」154頁以降参照)を少なくとも都道府県レベルで構築することが望ましい。類似の試みと評価できるものとして、既に民間レベルでは家庭裁判所調査官のOBらで組織されている社団法人家庭問題情報センター(FPIC)などの実例があり、関西圏では家庭裁判所からの一定の支持を受けているように推察される。
     現行の日本の家庭裁判所の面会交流審判で、面会交流の開始後の一定期間に関しての細かいルールを策定できない事情は、まさに利用できる施設及び実施機関がないことに尽きるのであり、日本と米国との裁判制度の違いはこの際、重要な差異を持たない。
     この点、DV被害事案に関しては、2001年(平成13年)に制定された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV保護法)が、多くの場合被害者となる女性及びその家族の自立を促進する目的を掲げ、国及び地方公共団体の責務として「配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護する」ことを命じ(同法第2条)、地方公共団体に対し「婦人相談所その他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにする」ことを命じている(同法第3条)ことからすれば、既に各地方公共団体で整備されているDV被害者支援計画等の一環として、上記のような条件を備えた施設の提供と管理者の配置を実施することは比較的容易と思われる。
     そしてまた、子どもの権利条約第18条2項は、「この条約に掲げる権利の保障及び促進のために、締結国は、親及び法定保護者が子どもの養育責任を果たすにあたって適当な援助を与え、かつ、子どものケアのための機関、施設及びサービスの発展を確保する。」としているのであって、この観点からすればDV被害事案に限らず、広く別居状態で夫婦が激しく対立抗争中である場合、そして離婚後もその対立抗争関係が解消されない場合の子どもの面会交流を実現するための上記のような条件を備えた施設の提供と管理者の配置を実施するための施策を実施することがDV保護法における国の義務を超えた一般的な国の義務となることも当然である。
     
  8.  よって、頭書の議題を提案するものである。

以上