中弁連の意見
議 題
島根県弁護士会
ひとり親(母子家庭)への支援を求める議題
国及び地方自治体に対し、ひとり親、とりわけ母子家庭への自立を促進するための就労支援、養育費の確保、子育て生活支援、経済的支援などの総合的な母子家庭等対策を推進するとともに、当面、以下の法改正及び制度の改善を行うことを求める。
1 児童扶養手当法における
(1)児童扶養手当の所得制限の限度額を大幅に引き上げるとともに、支給要件に離婚を前提とした別居を加える
(2)児童扶養手当法第13条の2(支給開始5年経過の場合、手当額を半額に減額する)を削除する
2 生活保護法における
(1)母子加算を復活する
(2)教育扶助の範囲を高等教育まで拡大する
3 子どもたちへの貧困の連鎖を断ち切るため
(1)子どもたちの健やかな成長を保障するための生活環境の整備・子育て支援等の措置をとる
(2)母子家庭(別居家庭を含む)の子どもたちの高等教育の機会確保のための経済的支援等(授業料免除、奨学金の充実等)を行う
4 母子家庭(別居家庭を含む)の生活の場を確保するために
(1)公営住宅の優先的入居を一層拡大するとともに、連帯保証人なしで民間住宅に入居できるように公的な家賃保証制度や家賃貸付制度を充実・拡大する
(2)不足している母子生活支援施設の新設・老朽施設の建てかえ、運営の改善・人的スタッフ等の充実を図る
5 母子家庭への経済的支援の一環として
(1)医療費助成制度を創設する
(2)所得税法上の控除制度、子育て控除(寡婦控除とのバランス)をする
(3)別居母子家庭の保育料の減免措置をとる
提案理由
1 はじめに
(1)今、ワーキングプアが現代日本の深刻な貧困問題として指摘され、それが、日本政府の「構造改革」政策、すなわち、「市場中心主義」のもとにおける「規制緩和」政策に重大な要因があり、その影の部分(弱者切り捨て)として、もはや無視できない深刻な事態となっていることが認識されつつある。
具体的には派遣労働の原則自由化(派遣労働法)、労働時間の弾力化、有期労働契約の緩和等が非正規雇用労働者の大幅な増加や不安定雇用、労働条件の劣悪化、失業者の増加等を招き、働いても働いても生活できない働く貧困層を増大させている。
(2)ひとり親家庭、とりわけ母子家庭は、もともとパートや非正規雇用あるいは専業主婦であった妻が子どもを連れて離婚するケースがほとんどであり、今日的問題であるワーキングプア問題がとりあげられる以前から、一般労働者家庭の年収の約3分の1しか収入がない生活困窮家庭であり、かつ、幼い子どもたちの子育て問題、教育問題等を抱えてきた。
しかし、これらひとり親家庭、とりわけ母子家庭の経済的貧困、生活困窮の問題について、社会は必ずしも目を向けず、法的・制度的支援は極めて不十分である。十分と言いがたい生活環境の中で成長を余儀なくされた子どもたちは、高等教育を受ける機会に恵まれず、安定した職業に就く上でのハンディを負い、「貧困の連鎖」を招いている。
(3)このような実情を踏まえ、2003年(平成15年)、国は、母子及び寡婦福祉法等の一部を改正し、同法は、母子家庭の子育て・生活支援、就労支援、養育費の確保、経済的支援を掲げ、更に、これらの施策を推進するために、国及び地方自治体における総合的な自立支援体制の整備と、都道府県・市等の自立促進計画の策定を求めた。
しかし、同法は、「自立支援」と引き替えに、それまで母子家庭を経済的に支えてきた児童扶養手当の削減と受給後5年で手当を2分の1にすることや、生活保護における母子加算を廃止した。
(4)児童扶養手当等の削減は、低賃金・不安定雇用で働く母子家庭を直撃し、母子家庭の経済的窮乏を更に深刻化する一方、自立支援のための施策は具体化されないか実効性を欠き、法の求めている自立促進計画の策定も、中国5県では、広島県、山口県、岡山県では、一応策定されているものの、具体性に乏しく島根県では策定準備中、鳥取県では次年度以降に策定予定である。
そもそも、母子家庭の経済的困窮は、もともと日本社会の構造的な競争原理や女性の非正規労働者の置かれた立場に規定されており、自立支援の施策が具体化されたとしても、なお、経済的支援が必要であることは明らかである。したがって、自立支援の名の下に経済的支援を廃止することは、制度論的にも誤っており、したがって、経済的支援の廃止はあまりにも時期尚早と言わざるを得ない。
また、自治体の中で、いまだ母子寡婦福祉法の定める自立促進計画を策定していない自治体のあることは、あまりにも怠慢と言わざるをえず、未策定の県においては、速やかにこれを策定するとともに、策定済みの県においても、その内容を充実し、抽象的で単なる努力目標を掲げるだけではなく、母子家庭の抱える諸問題を実効的に解決する具体的な内容の施策を策定すべきである。
(5)なお、母子寡婦福祉法等に基づく自立促進の施策には、離婚を前提として配偶者と別居した事実上の母子家庭が対象とされていないが、DV等の理由で、離婚を前提として夫と別居した母子にとって、離婚に至るまでの間の住居の確保・就労並びに経済的支援・心理的ケア等の必要性は極めて切実かつ緊急である。
そこで、国に対し、母子家庭の自立促進の施策の対象として、このような離婚を前提とする別居中の母子家庭に対する抜本的な施策を講じることを求める。
(6)ところで、配偶者との離死別等によるひとり親家庭には母子家庭だけではなく、父子家庭も存在し、近時、父子家庭に対する子育て・家事支援の必要が取り上げられるようになっている。確かに、父子家庭については、比較的安定した階層と不安定な貧困階層にわかれていると指摘されている一方、貧困父子家庭の子育て・生活問題の深刻さが看過されてきたことや、父子家庭に特有の生活課題がいまだ明確にされず、父子家庭を対象とした法律や行政の取り組みがほとんど進んでいないという問題がある。
しかし、全国母子世帯は父子世帯の6倍に上っており、圧倒的に母子家庭の数が多いこと、母子家庭の現状は構造的な貧困を原因とし、父子家庭に比して、平均年収が半分に過ぎないこと、母子寡婦福祉法が母子家庭を対象としていること等を考慮し、本提案は、緊急に対策を必要とする母子家庭(別居中を含む)に限定することにした。
2 母子家庭の現状と問題点
(1)母子家庭の経済状況
母子家庭にとって、ワーキングプアは、決して新しい問題ではない。
即ち、母子家庭の母の多くは、婚姻中、専業主婦あるいは、非正規パート労働者、派遣労働者として、不安定かつ低賃金労働に従事してきた。そして、別居あるいは離婚を契機として、婚姻中は表面化していなかった失業、不安定・低賃金労働の実情が母子家庭を直撃し、その収入だけでは生活できず、母親達は、やむなく子どもたちを自宅に残し、昼・夜と仕事を掛け持ちし、長時間労働に従事してきたのである。
それにもかかわらず、母子家庭(平均世帯人数3.30人)の平均就労年収は、わずかに金171万円であり、これに児童扶養手当等の社会保障給付金を加えてようやく年収金213万円(平成17年度/平成18年度全国母子世帯等調査)に過ぎない(なお、父子世帯の平均年間収入は、平均世帯人員4.02人に対し、421万円となっている)。
そして、国民生活基礎調査による全世帯の平均が金563万円であるのと比較し、後者を100とすれば、母子家庭の平均年収は、37.8と約3分の1である。
(2)働く女性の現状
1985年(昭和60年)、日本は女性差別撤廃条約を批准し、男女雇用機会均等法を制定した。その後、数回の改正を経て、2007年(平成19年)4月1日から改正均等法が施行されている。
2005年(平成17年)の女性雇用者は、2229万人、全雇用者数に占める割合は41.3%を占め、数・比率とも過去最高となっている。しかし、依然として男女の賃金格差は著しい上、雇用機会均等法の改正にあわせ、残業規制・深夜業規制等の女子保護規定が撤廃された結果、子どもを抱えた女性が正規雇用者として働き続けることの困難が指摘されている。
加えて、1990年(平成2年)代後半以降、派遣労働法が成立したこともあり、パート、派遣、契約社員など非正規雇用労働者が急増しているが、とくに女性の非正規雇用の増加は著しく、2005年(平成17年)には女性雇用者に占める非正規雇用労働者の割合は52.5%にものぼる。
この激増する非正規雇用労働者は、身分も不安定で賃金等処遇も劣悪である。たとえば、女性パートの時間給は、平均962円(厚生労働省平成19年「賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況」)で、一時金などの支給額をあわせても、年々減少し続けている。
その結果、賃金で見ると、2007年(平成19年)の女性労働者の所定内給与額は、22万5000円(短期間雇用労働者を除く)で、男性を100とすると、女性は66.9にとどまっており、格差はかえって拡大している(2004年(平成16年)は67.6。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。
このように、非正規雇用の女性雇用労働者は、女性であることと、非正規雇用であることによって、二重の差別を受けているのである。
(3)離婚の増大と母子家庭
日本では1960年(昭和35年)代から離婚率が上昇し、2006年(平成18年)の離婚件数は25万7475件(厚生労働省「人口動態統計」)となった。また、現在では母が親権者となって子を引き取る場合が圧倒的に多く、2003年(平成15年)の調停離婚成立や審判においても、母が親権者となるのは89.7%を占めている。
一方、離婚後、養育費を支払わない父親が多いことは、2006年(平成18年)度の「全国母子世帯等調査」では、養育費の「取り決めなし」が58.3%と過半数を超え、取り決めをしていない理由は、「相手に支払う意思や能力がないと想った」が47.0%である。また、養育費を「現在も受けている」割合は増えてきているが、19.0%に過ぎない。
なお、子どもの福祉的視点から、養育費の取り決めや支払い確保のための制度、離婚後の共同親権、子どもからの面接権などの制度的な整備が求められるが、現在、国や行政が進めている「養育費」の取り決め等の促進は、啓発のみであり、なんら養育費支払い確保の抜本的対策とはなっていない。
(4)さらに貧困化する母子家庭
このような女性を取り巻く厳しい状況のもとで、母子家庭は一層生活困難な状況にある。母親とその未婚の20歳未満の子どものみからなる母子家庭の数は、74万9048世帯と増加している(総務省平成17年国勢調査。ちなみに、父子家庭は9万2285世帯である。)。
前述のとおり、母子家庭の平均収入は、児童扶養手当等の社会保障給付金を加えてようやく年収金213万円に過ぎず、そして、国民生活基礎調査による全世帯の平均が金563万円であるのと比較し、約3分の1である。
そして、母子家庭の母親の就業率は、84.5%であり、そのうち臨時やパート、派遣等の不安定な雇用業態で働いている母は43.6%(「常用雇用者」35.9%、「臨時・パート」36.8%)にのぼる。また、母子家庭の母親の完全失業率は8.9%で、平均完全失業率5.3%に比べて著しく高く、母子家庭の母が仕事を確保することも仮に仕事を見つけても不安定かつ低賃金労働に従事せざるを得ない実情をみることができる。
また、不就労は14.6%にすぎないが、その78.7%が就労を希望し、その内「求職中」が33.3%、「職業訓練中・技能習得中」が4.0%、「病気で働けない」が25.9%、「子どもの世話」が12.6%である(以上、厚生労働省平成18年度全国母子世帯等調査結果)。
また、母子家庭となったときの母の平均年齢が若年化しており、約3割が20代である。このことは、養育する子がまだ幼いことを示しているところ、新規にフルタイムで働くことは、本人としても、受け入れ先としても極めて困難であり、必然的に非正規雇用労働者となるしかない。加えて、保育料の負担や、相談相手やサポート体制もないままに、幼い子を抱えてひとりで働かなければならない母の精神的・肉体的負担は極めて大きい。前記平成18年度調査結果によれば、母子家庭の母の悩みは、子どもに対する教育・進学・しつけ、家計・仕事・住居・自分の健康などであり、また相談相手がいないと述べる者は23.1%にものぼる。
(5)社会保障などの給付の制限
上記の実情にもかかわらず、国は、母子家庭に対して2002年(平成14年)に児童扶養手当の所得限度額を変更し、母子寡婦福祉法や児童扶養手当法の改正により、2003年(平成15年)に5年経過した母子家庭に対して児童扶養手当を半額にすることを立法化した(半額化については凍結)。
また、国は、特に生活保護については2007年(平成19年)度から母子加算を段階的に廃止することにし、同年11月には、生活扶助基準の大幅な減額が提案されるに至った(生活扶助基準切り下げは延期)。
上記受給制限にもかかわらず、児童扶養手当受給者数は、2002年(平成14年)3月の約76万人から、2008年(平成20年)2月には約100万人となっている(厚生労働省福祉行政報告例)。これらの給付制限などは、もともと児童扶養手当等でかろうじて生活を成り立たせていた母子家庭の経済状況を悪化させ、その自立をいっそう困難にさせることになった。
(6)母子家庭に特有の問題
離婚による母子家庭の場合、それまでの生活環境や経済状態が離婚前後で大きく変化し、しかも、離婚という家族の解体に伴う母子の心身への影響も大きい。昼夜働き体をこわす母親や、子育てにお金や時間を掛けられないことに罪悪感を感じ自分を責める母親もいる。また、子どもも、それまでの友人関係や生活環境などの変化になじめず、ゆとりなく働く母親に甘えることも出来ないなど、母子共に追い詰められていくことも決して少なくはない。
母子家庭及び寡婦の生活の安定と向上のための措置に関する基本的な指針(平成20年4月1日、厚生労働省告示248号)は、「母子、父子を問わず親との離死別は、子どもの生活を大きく変化させるものであり、そのことが、子どもの精神面に与える影響や進学の悩みなど、子どもの成長過程において生じる諸問題についても、十分な配慮が必要とされている。」と述べているが、このような配慮を具体的に政策化すべきであろう。
(7)離婚を前提として別居中の母子家庭の問題
DV等のために子どもを連れて夫から逃れた妻や、夫が他の女性に走って取り残された妻子の生活問題は、夫婦間の葛藤を抱え、また、経済的・生活環境の大きな変化の中で、離婚の手続をとっていくことの困難さは、我々法律家にとって、日常的に目の当たりにしていると言っても過言ではない。
住居の確保、仕事の確保、経済的自立、子どもたちの学校や生活環境の調整、母子共に傷ついた心理的ケアの必要性等は、極めて大きいが、これに対する対策は、配偶者暴力防止法や児童虐待防止法等で対応できる範囲に過ぎず、極めて不十分である。
また、例えば、別居中の夫が妻や子どもの健康保険証を渡してくれないために病院に行けない、保育所に入所しようとすると、別居前の夫婦の収入が保育料算定の基礎となる、夫がいるということで公営住宅への入居が容易に認められない等といったことも、離婚手続中の母子にとっては、深刻な問題である。
このように、離婚後の母子家庭に認められる行政の支援や福祉的措置を受けることができないことによる困難を解決するためには、例えば離婚調停中の母子家庭については、法制度上も母子家庭として取り扱い、児童扶養手当の支給や公営住宅への優先入居その他の制度の対象とすることが求められる。
3 母子家庭に関する法制度とその問題点
(1)母子寡婦福祉法とその問題点
ア 1964年(昭和39年)、「母子福祉法」が制定され、1990年(平成2年)に「母子及び寡婦福祉法」に改正され、さらに、2002年(平成14年)同法の一部改正によって、ひとり親家庭等に対する「きめ細かなサービスの展開」等、母子家庭の母等に対する子育てや生活支援策、就業支援策、養育費の確保、経済的支援策を総合的に展開することを目的とし、国による基本方針策定、都道府県等による自立促進計画の策定を明確化することになった。
同法に基づき、国は、2003年(平成15年)3月「母子家庭及び寡婦の生活の安定と向上のための措置に関する基本的な方針」(厚生労働省告示第102号)を定め、さらに、2008年(平成20年)4月1日「母子家庭及び寡婦の生活の安定と向上のための措置に関する基本的な方針」(厚生労働省告示第248号)を定めた。上記平成20年度基本方針は、今後実施する施策の基本的な方向性として、国、都道府県及び市町村の役割分担と連携、就業支援の強化、相談機能の強化、福祉と雇用の連携を挙げ、実施する各施策の基本目標として、子育てや生活の支援策、就業支援策、養育費の確保、経済的支援策を挙げている。そして、講ずべき具体的な措置に関する事項を、国が講ずべき措置と、地方公共団体が講ずべき措置に対する支援とに分け、列挙している。
イ しかし、前述のとおり、中国5県においてはこれらの国の基本的方針にもかかわらず、いまだその促進計画すら策定されず、具体的な施策が取り組まれているとは到底いえない。
また、これらの国の講ずべき措置の対象とされているのは、前述のとおり、法律上の離婚母子家庭に限定され、離婚を前提として別居している事実上の母子家庭に対する支援策はごく一部に過ぎない。このような国の姿勢は、別居後離婚までの最も不安定で困窮し、最も支援を必要とする母子家庭の存在に目をつぶるものであり、離婚成立後の母子家庭の自立を一層困難にする原因ともなっていることを看過していると言わざるを得ない。
ウ 1969年(昭和44年)から母子寡婦福祉資金の貸し付けが実施され、貸し付けの種類は、就学資金、技能修得資金、就業資金、就職支度資金、住宅資金、修学支度資金等の13種類がある。母子福祉資金の中では、修学資金の利用率が全体の約8割ともっとも高く、続いて修学支度資金が14%弱である(2003年(平成15年))。
しかし、母子家庭にとって、返済制度は大きな負担となっており、また、就労のための技能修得中の生活費の貸し付けや、給付がないために、現実には技能修得は困難である。
(2)児童扶養手当法とその問題点
ア 1961年(昭和36年)に制定された児童扶養手当法は、父と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もって児童の福祉の増進を図ることを目的としている(児童扶養手当法第1条)。児童扶養手当は、低所得である母子家庭にとって、所得保障の一環として重要な役割を果たしてきたものである。
また、同法は、1998年(平成10年)、政令改正によって、それまで支給対象外とされていた非嫡出子で、父から認知された児童についても支給対象とする変更がなされた。
イ 一方、その前後の数回に亘る改正により、受給資格認定は緩和されたものの、その給付のための所得制限の限度額が引き下げられ、子どもの父からの養育費を母の所得とみなすなど、実質的に給付を受けられなかったり、減額される母子家庭が増えることになった。
すなわち、2002年(平成14年)に、小泉政権下で、母子福祉施策の大きな転換が行われ、それまで児童扶養手当が中心であった母子支援策を、就労支援を中心とする母子自立支援策へ転換したが、実際には自立支援策は実効性が少なく、むしろ経済的支援が削られたことにより母子家庭の自立を困難にしたのである。
ウ なお、同法は、離婚を前提として別居中の事実上の母子家庭については、1年以上の遺棄とみなされなければ受給資格が与えられていない。母子福祉法における問題と同様、児童扶養手当法が、離婚を前提として別居している事実上の母子家庭に対する支給の道を閉ざしていることは、極めて問題である。
(3)生活保護法
さらに、この児童手当の大幅な切り下げに続き、生活保護の母子加算が削減されるという切り下げが行われることになった。
母子加算は、母だけで子どもを養育することに伴う負担が大きいことに鑑み、設けられたものであり、2002年(平成14年)7月1日現在の「被保護者全国一斉調査」によると、適用件数は8万0168件であった。しかるに、この母子加算を、政府は生活保護切り下げ政策により、15歳以上の子どもがいる世帯について、2005年(平成17年)4月から段階的に削減し、2007年(平成19年)4月からは15歳以下の子どもがいる家庭に限定して適用することになったのである。
しかし、15歳といえばまだ中学生である。母子家庭世帯の厳しい現状から見て、15歳以上の子どもを抱えた母子家庭に対する加算の必要性は大きい。
4 最後に
母子家庭の母がひとりで就労と養育を担う生活は、上記に縷々述べてきたとおり、実に様々な困難を抱えている。経済的自立、住宅の確保、子どもの養育、家事などに加え、離婚に至る過程での精神的・心理的ダメージ、地域や対人関係におけるストレスや孤立化、過労に伴う健康問題等、母と子どものいずれもが支援を必要としている。
しかし、前述のとおり、法制度そのものが、離婚に至る前の事実上の母子家庭を対象としていないことや、経済的に困窮している母子家庭にとって、児童扶養手当の削減や生活保護母子加算の廃止は、大きな打撃であり、これらは、法改正によって見直されるべきである。
また、国は、母子寡婦福祉法を改正し、これらの問題を解決するために「母子家庭及び寡婦の生活の安定と向上のための措置に関する基本的な方針」を策定して様々な方策を提示し、国及び地方自治体の講ずべき措置として具体的に取り組む姿勢を示していることは評価できる。しかし、問題は、その実効性ある施策とその実行であり、各地方自治体における取り組みはまだまだ不十分である。中国5県は上記国の指針を受け早急に具体的措置を策定すべきである。
我々弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現をその責務としている。しかも、日常業務の中で、法律専門家として、社会において最も弱く支援を必要としているこれら母と子の問題にも直面しているはずである。
貧困の連鎖を断ち切り、社会で見過ごされている母と子の人間らしく生きる権利の実現のために、国の基本方針に基づく実効性ある施策を各地方自治体に実現させ、また児童扶養手当法の所得制限の引き上げ等の法改正を求めることが、我々にとっても強く求められているのである。
よって、国及び中国5県に対し、議題の趣旨のとおりの法改正及び制度の改善を求める次第である。
以上