中弁連の意見

議  題

鳥取県弁護士会

多重債務者の掘り起こし(発見)と
専門機関への確実な引き継ぎを求める議題

 

 地方自治体は、すべての多重債務者が多重債務問題を解決することができるよう、相談窓口へのアクセスができない多重債務者の掘り起こしを積極的に行うとともに、専門機関(弁護士・司法書士)の関与が必要な多重債務者を、確実に専門機関に引き継ぐことを求める。

提案理由

1 政府の多重債務者対策本部は、本年4月20日、200万人超に上ると言われている多重債務者の救援・支援などの多重債務対策について「多重債務問題改善プログラム」を策定した。昨年の臨時国会において成立した改正貸金業法により貸付の上限金利が引き下げられるなど、貸し手への規制を通じて新たな多重債務者の発生を抑制しようとする施策が講じられているが、同プログラムでは、既存借り手などを対象とした「借り手対策」が必要との認識のもと、


01.gif 丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口の整備・強化
02.gif 借りられなくなった人に対する顔の見えるセーフティネット貸付けの 提供
03.gif 多重債務者発生予防のための金融経済教育の強化
04.gif ヤミ金の撲滅に向けた取締りの強化


 を、国・自治体及び関係団体が一体となって実行し、各省庁は直ちに取り組むこと、各年度において各施策などの進捗状況のフォローアップ等を行うことを定めている。

 

2 同プログラムの中心は、「丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口」の整備・強化であるが、「相談窓口にアクセスできているのは多重債務者の2割で、残りの8割の掘り起こし(発見)・問題解決が重要」との基本認識のもと、「多数の多重債務者がどこにも相談できないまま生活に行き詰まるおそれがある中で、相談体制の強化はすぐに措置すべき課題」「遅くとも、改正貸金業法完全施行時(2009年末)には、どこの市町村に行っても適切な対応が行われる状態を実現する」とされ、多重債務対策の充実のため、都道府県に、関係部署、警察、弁護士会、司法書士会及び多重債務者支援団体などによる「多重債務者対策本部(又は同協議会)」を設立し、必要な協議を行うことを求めている。
 これを受け、各県では、多重債務者対策本部が設置されつつある状況である。

 

3 このように多重債務問題改善プログラムが策定され、各県に多重債務者対策本部(協議会)が設置された流れは高く評価すべきであるが、今後、既存借り手の対策・救済を現実に行っていくためには、各地方自治体が積極的に多重債務者の掘り起こしを行っていき、各県に設置された多重債務者対策本部(協議会)が充実した活動を行っていくことが不可欠である。

 この点、各県では関係団体との連携の強化を図り、多重債務相談会を実施するなどの活動を行っているが、未だに相談窓口にアクセスできていない多重債務者の掘り起こし(発見)を進めるため、


01.gif 多重債務相談が可能な常設窓口の早期設置
02.gif 多重債務相談窓口の存在や多重債務問題が解決可能であることについての広報
03.gif 地方自治体内で連携して多重債務者を積極的に掘り起こす取り組み
04.gif 多重債務者及び多重債務の可能性のある税金・社会保険料滞納者が相談窓口にアクセスするためのシステムの構築
05.gif 相談窓口にアクセスした多重債務者を確実に関係ネットワークに引き継ぐ体制の整備


 などが必要である。

 

4 とりわけ、多重債務者がどこにも相談できないままに生活に行き詰まることを防止するためには、自ら積極的に相談窓口にアクセスすることのできない多重債務者を掘り起こす(発見する)ため、上記③④の取り組みが不可欠である。
 多重債務者問題改善プログラムは、掘り起こしの例として、「生活保護を担当する福祉事務所、家庭内暴力・児童虐待、公営住宅料金徴収の担当部署等で、多重債務者を発見した場合、相談窓口に直接連絡して誘導する」といった取り組みを挙げているが、地方自治体は各部局に多重債務者問題を周知徹底し、発見された多重債務者を相談窓口に確実に誘導できるよう、早急に職員教育を実施し、体制を整えるべきである。
 また、多重債務者は督促の厳しい消費者金融への弁済を優先して行うため、税金や社会保険料の納付を滞納しがちである。このような滞納者に対する対策として、今年度、厚生労働省のモデル事業が5都県で実施され、国民健康保険多重債務者相談として、債務整理の案内や提携した専門家による無料相談を定期的に行い、多重債務者を掘り起こして専門家による多重債務問題解決につなげるシステムによる取り組みが行われている。また、独自に地方自治体等と弁護士会等が提携して事業を実施しようとしているところもある。租税滞納者は多重債務問題を抱えていることが多く、このような層を対象として多重債務者掘り起こしの取り組みを行って相談窓口につなげることは、多重債務問題の解消にとって大変有効であり、ひいては滞納金の納付にもつながるのであるから、各地方自治体や関係団体は、積極的に租税滞納者の多重債務問題解消に取り組むべきである。

 

5 さらに、せっかく行政の相談窓口までアクセスした多重債務者が、実際の多重債務問題解決に至らずにまた埋もれてしまうことがあってはならない。政府の多重債務問題改善プログラムも、「必要に応じて専門機関(弁護士・司法書士、医療機関等)に紹介・誘導するといったプロセスをとることが望ましい」としているが、多重債務問題解決のためには、専門機関(弁護士・司法書士)の関与が必要な多重債務者を、確実に専門機関に引き継ぐことが不可欠である。多重債務者にとって専門機関への相談は敷居が高く、また誤った知識により不安を抱いていることもあり、多重債務者が行政の相談窓口での相談で専門機関への相談が必要であると感じても、それを実行に移すことが出来ないケースが多い。このような多重債務者に対しては、単に専門機関の紹介に終わるだけでは足らず、確実に専門機関へ誘導することが必要となってくる。相談窓口は、多重債務者に対して、積極的に専門機関の関与の必要性を説明するとともに、多重債務対策本部(協議会)のネットワークを通じるなどして、速やかに専門機関に多重債務者相談を引き継ぐシステムを構築すべきである。各弁護士会は、多重債務者問題に積極的に取り組んでいる弁護士の名簿を作成したり、法律扶助制度を活用するなどして、積極的に引き継ぎに協力する所存である。

 

6 これまで多重債務の救済は、弁護士、司法書士などの法律専門家や被害者団体などが担ってきたが、これまでに救済が図られてきたのは多重債務者の2割に過ぎず、8割については自治体の協力が不可欠であり、各地方自治体に対し、速やかな対応を求める。

以上