中弁連の意見

議  題

島根県弁護士会

 

島根原子力発電所におけるプルサーマル計画実施に関する議題

 

 島根原子力発電所におけるプルサーマル計画実施の事前了解の可否の最終判断に当たっては、次の手続が遵守されるべきである。

 

  1.  島根県及び松江市は、専門家、地域住民、NGOなどによって構成される原子力政策に関する独自の常設の調査研究組織を設置し、プルサーマルの安全性のみならず、必要性、経済性、政策としての妥当性、地域にとっての利害得失を含め、幅広い問題について、長期的視野をもって慎重、かつ、適切な検討を行うこと。
     
  2.  国及び電気事業者は、プルサーマルの安全性、必要性、経済性、政策としての妥当性等の問題について、十分な情報公開を行い、説明責任を果たすこと。
     
  3.  島根県及び松江市は、住民投票、公開討論会、意見募集等の方法により、事前了解を行うか否かの意思決定過程への住民参加を保証し、住民の意見を十分に反映した判断をすること。

提案理由

1 国策として推進される再処理・核燃料サイクル政策

(1)2005年(平成17年)10月に原子力委員会が発表した「原子力政策大綱」は、次の通り、原子力発電の推進、核燃料サイクルの確立、プルサーマル[軽水炉による、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)の利用]の推進を基本方針として定めた。

01.gif 核燃料資源を合理的に調達できる限りにおいて有効に利用することを目指して、安全性、核不拡散性、環境適合性を確保するとともに、経済性にも留意しつつ、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを基本方針とする。
02.gif 01.gif上記の方針を踏まえ、当面、プルサーマル(軽水炉によるMOX燃料使用)を着実に推進する。

 

(2)上記の方針に沿うように、国は、これまでに、東京電力(柏崎)、関西電力(高浜)、四国電力(伊方)、九州電力(玄海)に対して、プルサーマル実施に関する原子炉設置変更許可をしている。

(3)中国電力株式会社は、島根原子力発電所2号機に於ける2010年(平成22年)の プルサーマル実施を求め、2005年(平成17年)9月、島根県及び松江市に対して、安全協定に基づく事前了解願いを提出した。
 これに対し松江市は、二段階方式を採用することとし、第一段階で中国電力が設置変更許可申請を行うことについての了解の可否を判断し、第二段階で上記申請に対する国の安全審査後にプルサーマル実施に対する最終的な了解の可否を判断することにした。
 他方、島根県は「安全性については、国による厳格な安全審査と中国電力における適正な運転を前提に確保されること、また、必要性については理解できることから、中国電力からの事前了解願いについては、基本的に了解する。
 なお、最終的な回答は、国の安全審査まで留保し、安全審査結果を確認した上で最終的な事前了解を行う。」とした。

 

2 プルサーマル政策の問題点

(1)使用済燃料の再処理やプルサーマル政策に関しては、次のような批判がなされている。

01.gif MOX燃料には、ウラン燃料と比較して、原子炉の制御装置の効きの低下、気体状の核分裂生成物の放出の増加、核燃棒内の圧力の上昇、融点の低下、熱伝導度の低下など、安全上不利な特性がある。
02.gif MOX燃料には、プルトニウムなどのアルファ線を出す超ウラン元素が最初から含まれており、これらの放射能が外部に放出する事故が発生した場合の被害は甚大となる。
03.gif プルサーマルによるウラン資源の節約効果や経済性も疑問視されている。
04.gif そもそも、使用済燃料の再処理とプルトニウム利用を柱とする核燃料サイクル政策自体に対しても、再処理の危険性、平常時の環境負荷、労働者被曝、費用の増大など様々な問題点が指摘されている。

(2)このような問題点に鑑み、日本弁護士連合会は1998年(平成10年)5月の定期総会での「日本のプルトニウム政策に関する決議」において、「使用済燃料の再処理を止め、高速増殖炉プルサーマルなどプルトニウムをエネルギー源とする政策を放棄すべきである。」旨を提言し、2000年(平成12年)10月の人権大会においても「使用済燃料再処理の中止と直接処分の法制度の設備」を決議するなどしてきた。2004年(平成16年)5月には、「六ヶ所村再処理工場操業中止等を求める緊急提言」において、「国及び電気事業者は、プルサーマル計画を中止すること」が提言された。

(3)立地地域では、2005年(平成17年)8月に愛媛弁護士会が、同年11月に四国弁護士会連合会が、それぞれ伊方原発へのプルサーマル導入に反対する総会・大会決議を行い、2006年(平成18年)3月には、佐賀県弁護士会が、玄海原発へのプルサーマル導入に反対する会長声明を発表している。

 

3 立地地域の地方自治体の役割

(1)このように安全性、必要性、経済性等に関し、様々な問題の指摘されているプルサーマル計画が、国策として推進されている現状において、原子力施設の立地地域にある地方自治体の役割が、改めて問われている。

(2)2002年(平成14年)に制定された「エネルギー政策基本法」第6条は、地方公共団体が国の政策に準じて施策を講ずる責務を有するとしたが、他方で、地域の実情に応じた施策を策定及び実施する責務を有する、とした。

(3)いうまでもなく、地方自治体は、地域住民の生命、身体、財産の安全を守り、地域の利益の増進を図るべき役割を担っている。また、地方分権の下、地方自治体は、国と法的に対等の当事者として協議し、意見を述べることのできる立場にある。

(4)たとえ、核燃料サイクル政策、プルサーマル政策が国策であるとしても、上記のような地方自治体の役割に則り、かかる政策に対する賛否について独自の判断をすべきである。国の「原子力政策大綱」にも、原子力施設の立地する地方自治体に対して、国策への協力を期待する旨の陳述はない。

(5)殊に、原子力政策に関しては、ひとたび事故が発生した場合に地域住民の受けるリスクが極めて大きいばかりか、仮に、政策転換がなされた場合の経済的リスクも極めて大きい。また、平常運転時に於いても地域環境への負荷、保安対策、風評被害など、検討すべき地域的課題は多い。

(6)そして、このような問題点に対する検討は、施設の設置、操業開始から廃止に至る全ての過程を通じて専門的、かつ、統合的な判断が必要である。

 

4 地域自治体に於ける独自の調査、研究組織の必要性

(1)上記の通り、地方自治体が国の原子力政策に対して意見を述べたり、事業者に対する原子力施設の設置、操業に対する事前了解についての判断を行う場合には、地域の利益に則した視点から広く専門的、統合的 、長期的な検討を行うことのできる独自の常設の調査・研究組織を設置することが必要である。しかるに、多くの地方自治体は、このような組織を有していない。

(2)このような常設の機関のひとつに、福島県のエネルギー政策策定会議がある。2001年(平成13年)5月に設置された同会議は県庁内の組織ではあるが、常設の機関であり、国の「原子力政策大綱」策定に当たっても、パブリックコメントを寄せるなど、地域の視点に立った国の政策の検討を行っている。

(3)島根県及び松江市が、プルサーマルの事前了解を最終的に判断するにあたっても、このような検討組織のモデルによる慎重、かつ、適切な検討を行うべきである。

 

5 情報公開と説明責任

(1)地方自治体による判断及び地方自治体の意思決定への住民の参画は、プルサーマルの運転過程における安全性に関するあらゆるデータはもとより、使用済み燃料の再処理過程における危険性、困難性、有用性、経済性、使用済MOX燃料についても再処理とするか否かを含む取扱いについての方針等々、国、事業者からの十分な情報公開に基づく説明があってこそ、真に確保されるものである。

(2)よって、国及び事業者は、十分な情報公開を行った上、住民に対する説明責任を果たすべきである。

 

6 地方自治体の意見決定過程への住民参加

(1)地方自治体が、住民の重大な利害に関わる原子力政策に関連して事前了解の判断を行うに当たっては、地域住民の意見が十分に反映されることが重要である。
 ところが、現状においては、これが専ら地方自治体の首長の判断に委ねられ、議会の了承も形式的に取られているという現状にある。住民の中から委任された委員からは、一時的な懇談会が設けられることもあるが、委員の選任方法の公明性、平等性が必ずしも確保されていない。

(2)島根県が、プルサーマルの事前了解を行うに当たり、設置した懇談会についても委員の選任に関して同様の問題が指摘されており、同懇談会の結論をもって県民の意見としたことに対する批判の声が上がっている。
 また、松江市が市内各所で住民説明会を実施している最中に、島根県が基本的には事前了解をするとしたことについても批判がなされている。

(3)地域住民の意見を反映するためには、住民投票、公開討論会、意見募集等により、住民の意思決定への参画を確保すべきである。